双葉杏「透明のプリズム」
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11: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:06:38.36 ID:OJA0wgUK0







「双葉さん」


後部座席で舟を漕いでいた私は、新しいプロデューサーの声で意識を覚醒させた。
眠気のもたらした涙が視界をぼやけさせていて、目に映る物体の輪郭ははっきりとしない。
目を擦って視界を確かめる。
新しいプロデューサーが運転席から身をわざわざ乗り出して私を見ていた。

背伸びをして、大きな欠伸をする。
品も何もない私の欠伸を、彼は黙って、ともすれば不安が読み取れるような表情で、そっと窺っていた。


「お疲れですか」

「そりゃね」


不貞腐れたような声を出す。
担当替えが行われてから二週間が経過したが、仕事の量は以前とほとんど変わりがない。
担当プロデューサーが変わったんだし、仕事の量もレッスンの回数も少しは減らしてくれるだろう、といった目論見は外れてしまった。

とはいえ彼は、仕事とレッスンに埋もれる私をいくらか、というよりかなり心配しているらしく、実際に行動の節々に私への気遣いが表れていた。
厳しく扱われているのか甘やかされているのか。私には判断がつかなかった。
――冗談じゃなく死ぬほどのレッスンを課されたかと思えば、明らかに過剰なまでの気遣いをされる。
そんな風な彼のどっちつかずな行動は、時として私をどぎまぎさせることもあった。
今思えば、彼は不器用だったのだろう。


「この後私は所用があるので、申し訳ありませんが事務所待機でお願いします」

「おっけー」




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