22:名無しNIPPER[saga]
2019/07/09(火) 00:15:29.96 ID:zmX2O7Gg0
それは、今から1800年ほど前のこと――。
この大地は、魔界からやってきた魔物の毒で汚されていた。人々は病に苦しみ、争いも絶えなかった。
混迷の中、事の発端である魔物を退けようと一人の若者が立ち上がった。
誰もがその日一日を生き延びるだけで精一杯の世の中、孤立無援の戦いになるのは必至。けれども彼は一本の剣を携え魔物と相対した。そして案の定、苦戦を強いられた。
万事休すかと思われたそのとき、大きな獣が飛び出して魔物に噛みついた。それは彼がかつて助けた一匹の狼だった。
若者は魔物の毒に蝕まれ瀕死だった狼をつきっきりで看病し、己の空腹を顧みず食事を与え続けたのだった。
そんな彼の姿に、狼は種族を越えた想いを密かに抱いていた。孤立無援と思われていた若き勇者には、誰よりも彼を愛し見守る者がついていたのだ。
狼の強大な牙に抉られ弱点が剥き出しになった魔物に、若者は最後の力を振り絞って剣を突き立てた。
魔物が倒れ、その力が消え去ると、若者と狼の前に土地神が姿を現した。土地神は彼らを英雄として讃え、願いを三つ叶えようと告げた。
若者は言った。もう皆が二度と魔物に苦しまぬよう、この剣に神の聖なる力を宿してくれ、と。これが叶えられ、剣はたちまち聖剣となった。
狼は吠えた。人間となり、若者の妻として一生を共に生きたいと。これが叶えられ、彼女は美しい赤髪の乙女となった。
そして乙女は、思い人と手を取り合い言った。この土地に争いのない平和な国を築きたいと。
土地神は光を放ちながら姿を消した。光が晴れると、そこには立派な城と都が造られていた。狼だった乙女は初代女王に即位し、子宝にも恵まれた。
これがヴォルフス王国建国の物語である。
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