48: ◆ukgSfceGys[saga]
2019/06/18(火) 21:52:55.74 ID:tLeGcQVf0
最初は一体何かと思った。というか誰が誰に向けて発せられた言葉かすら認識できなかった。
「あれ? いないの? そんなわけないよね。点滴あるし」
そこでやっと私は自分が話しかけられてることに気が付いた。
「……いるよ。この忌々しい点滴なんかすぐ抜きたいけどね」
ベッドのカーテン越しに笑い声が響き渡る。どうやらこの皮肉はあっちにウケたらしい。
向こうが一通り笑った後、ごめん、ごめんと言いながら釈明しだす。
「だってさ、あたしと全く同じこと思ってたからさ。嫌だよね、この拘束してる管。ぶちっと抜いて自由になりたい」
「ぶちっと抜いたらその瞬間、血がピューって吹き出して、慌ててナースに捕まったりしてね!」
今度は二人で大笑いした。今考えればこんなことで笑うなんて二人とも長い入院生活で鬱屈としていたに違いない。
「ねぇ、加蓮さん?」
「え? アタシ、名前教えたっけ?」
「毎日のようにお医者さんに呼ばれてるじゃん。そんなのすぐに覚えるよ。加蓮さんだってあたしの名前知ってるでしょ?」
「それはそうだけどさぁ……」
「どうせお互いそうそうこっから出れないでしょ。仲良くしようよ」
「それはそうだけどさぁ……」
「ということでお近づきの印としてカーテン開けて顔を見せて」
「病弱な顔なんて見ても面白くないんじゃない?」
「それはそっちだってそうじゃん」
また二人で大笑いした。どうやら病弱ネタはお互いのツボに嵌るらしい。
「はいはい。開ければいいんでしょ、開ければ」
そういって二人でカーテンを開けて。
それでお互いに『まるで病人の顔みたい』って指をさしながら笑って。
それで笑ったことにまた大笑いして。
それでなんとなく対面のあの子と仲良くなった気がした。
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