【ミリマスSS】ジュリア「2人で」静香「星に届くまで」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:04:39.23 ID:IzJwPu6pO
新幹線で始発から終点までの長旅。そろそろ窓から見える風景にも飽きてきた。
福岡でのライブ。アタシにとっては凱旋ライブってことになるんだろうけど、福岡出身のアイドルや歌手なんてたくさんいるからな、凱旋なんて言葉を噛み締めてるのはアタシだけかもしれない。
右手の掌をじっと見る。思い出す景色がある。仲間たちと交わした約束と、託された熱。アタシはその熱を大事に抱えて、前だけ見て突っ走ってきた。そしてあの場所に帰る。なぁ、アタシの歌はオマエたちに届いているのか?
問いかけても答えは返ってこなかった。当たり前だ、ここはまだ新幹線の中。答え合せはアタシがあの場所に帰ってからだ。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:06:50.25 ID:IzJwPu6pO
アタシはあの場所に帰るんだ。改めてそれを実感すると、ヒョイっとある顔が浮かんできた。少し気が抜けてて、ヘラヘラしてて、寝癖はついてるし、ネクタイは曲がってる。おいおい、ちゃんとしないとまたモモに怒られるぞ。
浮かんだ顔はもちろんプロデューサー。気をつかってくれたのか、アタシを前乗りさせてくれた。東京に出て行ってから福岡に帰るのは初めてだってこと、プロデューサーにはバレてたみたいだ。
以下略
AAS
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:09:05.84 ID:IzJwPu6pO
高鳴ってきた鼓動に合わせるように指先が動く。相棒を鳴らすわけにはいかないから、空気を弾いて頭に音楽を鳴らす。その音に呼応して、なんだか目の前に光の束も見えてきたぜ。真っ暗な空間を燃やす赤色の光。
静香「ふふっ、ジュリアさん、ホントにギターが好きなんですね」
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AAS
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:11:07.60 ID:IzJwPu6pO
前乗り組はシズとアタシ。てっきりアタシだけだと思ってたから驚いた。シズに聞いてみたところ、プロデューサーからシズにだけ話があったみたいだ。
確かに、今回のライブはアタシとシズのユニット「D/Zeal」での出番が多いから、2人で行動するのは不自然じゃないのかもな。でも、アタシらそんなに仲良しこよしのユニットじゃないと思うよ。
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AAS
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:12:54.99 ID:IzJwPu6pO
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ジュリア「えっと...ホントにここでいいのかシズ?」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:15:17.85 ID:IzJwPu6pO
静香「ここはやはりしめじ、こんぶ、かき揚げのおススメメニュー?いえでも名物ごぼ天も捨てがたいし、あぁ迷っちゃう...」
ボソボソと食券機に向かって早口で独り言を話すシズ。お嬢様みたいなシズの見た目も相まってか、教会で祈りを捧げてる可憐なシスターみたいだ。まぁ、祈ってる先がうどんなんて、コメディにもならないけど...。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:16:54.37 ID:IzJwPu6pO
静香「私、実は初めは『やわ麺のうどんってどうかな?』って思ってたんです。やはり本場のうどんはコシがあるから、うどんはしっかりと麺自体の味を楽しむことが大事だと思っていて。だから麺をやわくしてしまうと、クタクタになって麺そのものの味を楽しめないんじゃないかなって疑問だったんです。でも違いました。おダシの風味を麺が吸収して、硬麺では出せない優しい食べ応えになるんです。まるで声量の強さだけで押さず、歌というよりメロディと一体化した音楽を作り上げるアーティストみたいな」
うどんをズズズズと啜りながら、器用にシズが早口で喋る。正直言ってアタシにはよくわからないが、まぁシズが楽しそうで何よりだ。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:19:11.74 ID:IzJwPu6pO
私もシズの事情は知っている。そういう顔ばかりしてしまうのは、シズ自身のせいじゃないって知っている。だから、もったいねぇよなって思っちまうよ。好きなものを目の前にしたコイツは、こんなにも可愛らしいから。豪快にうどんを啜る姿もなかなか絵になってる。
どうやら、アタシはシズのことを何も知らないんだな。ユニットを組んでから、シズとは歌と音楽の話しかしてこなかった。互いの歌声が上手く共鳴するように、波長をアジャストすることに全ての精神を注いできた。
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AAS
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:21:29.14 ID:IzJwPu6pO
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ジュリア「じゃあ、行こうか」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:23:13.28 ID:IzJwPu6pO
ジュリア「......」
目の前に広がる光景に、はっと息を飲む。綺麗に整頓された機材、掲示板もひとつひとつのチラシがきちんと見えるように、気が配られている。ヤニ臭くないし、床もツルツルで綺麗だ。かつてアタシが見ていたものとは、全く違う光景だった。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:24:46.33 ID:IzJwPu6pO
水を手にして腕を組んで演奏に耳を傾ける。一番後ろのスペースで壁に体重を預けながら、音の振動を背中越しに受け止める。
きっと、ステージのバンドはアドリブでセッションしてんだろうな。主導権があっちに行ったりこっちに行ったり忙しい。新鮮で楽しい演奏ではあるのだが、何故かモヤモヤしてポジティブな気持ちにはなれなかった。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:28:24.66 ID:IzJwPu6pO
その言葉にハッとする。アタシの中にあるモヤモヤした気持ちに名前をつけるなら「寂しい」がいいのかもな。
アタシはずっと前ばっか見て走ってきた。パンクロッカーになりたくて、曲を作っては演奏して、そうこうしてるうちに遠い東京まで走ってきちまった。手違いでアイドルになっちまったものの、それでもアタシは前だけを見て走ってきた。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:32:32.63 ID:IzJwPu6pO
ジュリア「テメェの居場所はもうここにはねぇ!ボーカルはいないから空耳だけど、そう歌われてる気がするよ」
シズは下を向いたまま言葉を返す。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:34:16.02 ID:IzJwPu6pO
アタシは隣でまだショボンとしてるシズの頭をポンポンと叩く。ありがとよ、シズのおかげで大事なことに気がついた。
静香「あ...あの...どうしましたか?」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:38:54.00 ID:IzJwPu6pO
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ジュリア「はぁー食った食った。腹いっぱいだ」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 00:40:53.67 ID:IzJwPu6pO
さて、ここからがアタシのメインイベントなんだけど、そんなわけで、シズを連れて行って良いものか迷ってしまう。だから、シズ自身に決めてもらうことにしよう。お姫様を夜の街にエスコートしても良いのかどうか。
ジュリア「シズ、アタシはこれから駅に向かう。シズはどうする?」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 01:04:59.27 ID:RP7gZ/wj0
静香「わぁ...」
駅に着いたアタシたちを様々な音楽が出迎えてくれた。シズはそれらを聴いて感嘆の声を漏らす。そう、駅前のストリートミュージシャン達。こいつらを見に来るのが、今日のアタシのメインイベントだ。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 01:06:55.61 ID:RP7gZ/wj0
なるほど。自然と笑い声が漏れだしてくる。その答えには思い当たるところがあった。奴らを見ていて、アタシが取り出した記憶の箱はまさしくそれだ。
静香「あの...私変なこと言ってしまったでしょうか?」
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 01:09:44.21 ID:RP7gZ/wj0
静香「すごいですね。ジュリアさんはここで腕を磨いて、今の素晴らしい音楽を作り上げたんですね」
キラキラとした目でシズがアタシを見る。憧れのスポーツ選手のドキュメント番組を見た小学生男子みたいだな。まぁ、シズはドリョクとかコンジョーとか好きそうだもんな。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 01:10:54.36 ID:RP7gZ/wj0
ジュリア「シアターにいると客が歌を聴きに来てくれるから、時々忘れそうになるよ。本来、歌を誰かに響かせるのはとっても難しいってことを」
アタシがそこまで言うと、黙って話を聞いてくれていたシズが、グッとアタシの目を見て問いかけた。シズの目は寂しげで、悲しそうだった。
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◆uYNNmHkuwIgM
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2019/06/15(土) 01:12:11.46 ID:RP7gZ/wj0
ジュリア「絶対に届くとは言えないな。興味のない誰かにとっては、ウチらの歌は音楽でも叫びでもない。ただのノイズだ」
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