【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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75: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/06/18(火) 22:56:23.04 ID:BLRBsoCc0

   〇


 次に通りかかったのは、所狭しと古書の敷き詰められた四角いテントだった。
 そんな「本の要塞」とでも言うべき空間の中心で、黒髪の女性が黙々と読書している。

「こんばんは、古本屋さん」
「……あ……カナリヤさん。こんばんは……お久しぶりです」

 なるほど古本屋か。
 彼女自身相当な本好きのようで、言葉を交わしながらもページをめくる手が止まらない。

「今日は叔父様は留守なんですか?」
「稀少本を求めて、ストックホルムの古本市へ……。半月は帰ってこないものと思われます」

 ちら、と顔を上げた時、彼女の目元を覆う厚い前髪が払われる。
 綺麗な青色の瞳だった。

 高垣さんの、深い泉の底のような色とはまた違う、夏空を写し取ったかのような鮮やかな青。
 身だしなみにはとんと関心がなさそうだが、かなりの美人だ。それこそモデル部門のスカウトが見たら黙っていないだろう。




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