【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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255: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/08/31(土) 23:20:29.41 ID:zSc+xtMY0


 途端に生ぬるい風が吹いた。冬には似つかわしくない、花の香りを含んだ風が。
 風は一気に強くなり、数秒もしないうちに目も開けていられないほどとなって渦を巻く。

 反射的に我が身を庇い、一瞬閉じた目を開いて、その瞬きで世界が変わったことを知る。


 花弁が舞っている。


 薄いピンク色の、指に乗る大きさの、仄かな香気を纏わせる、本来春にしか存在しない筈の――桜。

 まるでそれは壁のように俺の前後左右を埋め尽くし、1メートル先も見通せない雲霞となって道を閉ざす。


 積乱雲にでも飛び込んでしまったかのような気分だ。
 花弁は夜になお色鮮やかで、よく見れば今も降り注ぐ粉雪が混ざっている。ピンクと白。文字通りの花吹雪だった。



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