【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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230: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/08/22(木) 23:47:28.37 ID:rmOYl90d0

 廊下に出たらそれは更に強くなった。壁に貼られた会場案内図を参考に、イベントホールへの経路を探す。

 ――ちょっと待て、行く気か?
 頭の隅で声がする。今まさに行われているものが何なのか、知ればこそ理性の一部分が叫ぶ。
 ――わざわざ見る気か? 何の為に?
 言い訳じみた思考と裏腹に、体は早足で廊下を進む。震動は近くなり、高らかに歌う女性の声や、合わせて轟くコールまでもはっきりと聞き分けられる。

 分厚い防音扉に手をかけて、ほんの数秒、考える。


 ――アイドルなんて嫌いなんじゃなかったのか?


 嫌いさ。その在り方が、夢に対する現実の残酷さが大嫌いだ。
 だけど、彼女達はここにいる。

 今。

 川島さんや、タクさんやヨネさんや、千川さんやみんなが作り上げたものの最前線に、今立っている。
 たとえこれが一夜の夢だとしても、その夢に懸けて進み続けてきた者達の存在は嘘じゃない筈だ。


 その一端に。輝きに、ほんの一瞬だけでも触れてみたいと思うことは、罪なのか?




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