【たぬき】高垣楓「迷子のクロと歌わないカナリヤのビート」
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156: ◆DAC.3Z2hLk[sage saga]
2019/07/14(日) 01:08:21.07 ID:TmI5fe2I0

「素直に言ってください。そういうことでしたら、お答えするのは簡単なことです」

 高垣さんの指摘に、何故だか反論できなかった。
 自覚が無かった。俺は、「そう」なのか? ここまでがむしゃらだったのも、必死にこの人を追いかけたのも。

 傘と傘がぶつかり、水滴を散らして二人の後ろに倒れる。頬を濡らす雨の冷たさも感じない。

 初めてこの人と出会った時も、そういえば濡れていた。俺は川に落ちて。彼女は涙を流して。
 あの時からだったろうか。
 一緒に酒を飲んで、それから度々会って。くだらない話を何度もして、花火を見て、夜市に行って、

 彼女の歌を聞いて。


 あの頃からずっと「悲しそうな顔」をしていたと高垣さんは言う。
 だとしたら、俺が本当に望んでいたことを、この人は俺よりもよく知っていたのだろうか。

「ほら、言って? 傍にいてって。そうしたら……私も誓ってあげますから」


 もう、声と共に甘い吐息が届く距離だった。

 鼻と鼻がやわらかく触れ合う。前髪が絡み合い、二人の距離はほとんどゼロになる。
 唇が唇に近付いて、そのまま――




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