【ミリマス】馬場このみ『衣手にふる』
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266: ◆Kg/mN/l4wC1M
2020/06/12(金) 00:38:08.46 ID:Bg3Eqo0s0

劇場の客席から、このみを見つめる目線が、いくつもあった。

20代後半くらいの、リストバンドを手首に一つだけ付けた、若い男がいた。
男はペンライトを胸の前で握ったままで、舞台に立つこのみをじっと見ていた。
高校生くらいの、眼鏡をかけた少年がいた。
少年は、ペンライトを小さく揺らしたままで、動けなかった。
このみと丁度同じ年代くらいの、首に小さな首飾りを付けた、女性がいた。
彼女は、鼻と口のあたりを手で押さえながら、赤く腫らした目を必死に開けて、前を見ていた。

年齢も性別も、様々だった。
それだけでなく、きっと彼らがそれまで過ごしてきた環境、日々だって、一人一人で全然違うだろう。
しかし彼らは、今こうしてこの場所に居た。
数えきれないものの中から、この小さな劇場を見つけて。
何十億人の中から、たった一人を見つけて。
──彼らは、舞台の上の、このみだけを見つめていた。


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