エミリーが忘れた日
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72: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 23:02:33.24 ID:9pdDfgPfo
 
その後エミリーの自室にお邪魔して二人で部屋の整理を手伝っていると、エミリーは私に訊いてきた。

「《どうして、こんなところまで私と一緒に来たんですか?》」
「《お父様が仕事の都合で付き添いが難しくなったからよ》」
「《……そういう事を訊いているのではありません》」

エミリーの口調にはかすかな棘棘しさすら感じられる。765プロで接していたような、ふわふわと優しい印象のあのエミリーとは思えないほど。

「《私自身ですら今の自分が分からないというのに、どうして元に戻るなんて今でも思っているんですか?》」
「《戻りたくないってこと?》」
「《……ただ、あなたにここまでして頂く義理がないから》」

少し間を空けて返事があった。

「《個人的な感情だけじゃないわ。 私は765プロの代表としてここにいるの》」

文法書のみを別の箱にアルファベット順で並べしまいながら答えていると、エミリーの手の動きが止まったのが音で分かった。

「《正直言って、あんまりいい形でこっちに来なかったでしょ。 だからきちんと見送る係を任されたってわけ》」
「《……私は、事務所を去ろうとしているのに──》」
「《仮にそうであっても、エミリーが日本のことを好きじゃなくなっても、みんなのことはずっと好きでいてほしいから……》」
「《日本人というのは、親切すぎますね》」
「《それはあんたもよく分かってることでしょ?》」

エミリーは詰まるようにしばらく黙って、それから何事もなかったかのようにまた作業を再開する。

「《そっちは屋根裏にしまうので、そんなに丁寧に並べなくても大丈夫ですよ》」
「《……そう。 分かった》」

すこしだけ胸がちくりとする。ひとまず彼女の言うとおりに、屋根裏行きの本たちを作業的にまとめていく。
エミリーはそれっきり話すのをやめ、繰り返し小さなため息ばかりついていた。
さきほど見せた“よりちゃん”の絵は、どの箱にもしまわず、部屋の片隅にそっと隠すように置いてやった。

今の冷め切ったエミリーに何をしても意味がないのではと、時間が過ぎれば過ぎるほど強く思わされていく。


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