エミリーが忘れた日
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18: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:38:47.00 ID:9pdDfgPfo
 


「──起きて……プロデューサー。 起きて」

控えめに体をゆすられ、ようやく意識が戻ってきた。
みっともなく垂らしたよだれを反射的に袖でふき取ってしまうと、真上から「ちょっと、汚い!」と小言を浴びせられる。

「……伊織……?」

両目の焦点が定まらないものの、声はきちんと認識した。

「小鳥がここにいるって教えてくれたの。 きっとまだ残業してるってね」

ようやく声の主を見上げる。ほぼ同時に、「ん」と無理やり押し付けられて良く分からないままに“それ”を受け取った。

「んぅ……何でここに……?」
「話があるからに決まってるじゃないの。 なのにアンタが呑気に寝て…………いえ、何でもないわ」

伊織は隣の椅子に座って、スーツの肩に付いた埃を手で取ってくれているらしかった。

「とにかく、シャキッとして。 エミリーのことで来たのよ」
「うん、それは……なんとなく分かる」

背筋をググと伸ばし、両手で顔をパシンと何度か叩いてようやく朦朧状態から脱する。

「あのね、あれからエミリーと話をしたんだけど──」

一瞬だけ言葉を止め、パソコンの画面を横目で軽く覗いて、伊織はまた視線をこちらに戻した。

「──日本語の歌詞が分からなくなってるのは仕方ないとして、歌詞の“解釈”は覚えてるかどうか訊いたの」
「へぇ……何て言ってた?」
「英語で説明してもらったわ。 大体合ってた。 もっとも、深い意味の理解とかじゃなくて直訳程度の内容だけど」
「……つまり?」

今度は、分からないの?と言った顔つき。

「エミリーほどにもなると頭の中まで全部日本語で考えてるのかと思ったんだけど、それなら話が早いかも、ってことよ。
 ほら、よくあるじゃない──台詞や内容をほとんど覚えた洋画なんかを原語で観れば、勉強になるとか」

理解がギリギリ追いつくか追いつかないかの俺を気に留めず話を続け、

「あれと同じよ。 どういう事を歌ってるかはじめからわかってる歌詞なら、覚えなおしやすいでしょ」
「……うん、確かに、そうかも」
「日常会話はそれから順番に覚えていってもらうの」

それがいいわ、と最後に独り言で返事をする。


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