122:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:08:27.55 ID:YWfCY9A20
私はずっとずっと逃げ続けていた。この世界からも、もしも入れ替わったらなんていう非常識な現実からも目を背けていた。夢を見ているみたいに、都合のいい部分だけをかすめ取ろうとしていた。
心に引っかかる得体のしれないもの。出所不明の寂しさとか、奇妙な安心とか、母親の背中に投げた「ごめんなさい」とか。
それは全部、私自身の弱さだ。……私は、もうひとりの私の綺麗な陽だまりを奪おうとしていたんだ。
元の世界へ戻ることを考えて寂しいと思ってしまったのは、もう思い出の中にしかいない母親と離れたくないから。
戻る手立てが見つからなくて安心してしまったのは、まだこっちの世界で明るい場所にいられると思ったから。
そう思ってしまったことも、この陽だまりを手放したくないと思ったことも、本当は全部分かっていた。だけど、そんなサイテーなことを考えた自分と向き合えなかった。目を逸らして、見えない振りをして、誤魔化していた。
でも、どうしていたって、この陽だまりは私のものじゃない。もうひとりの……ずっと私として頑張ってくれている、立派な方の山吹沙綾のものなんだ。
私の世界は、こんなサイテーな私を見捨てないでずっと手を差し伸べてくれている香澄ちゃんたちや、妙に張り切って私を気遣うお父さんや、何を差し置いてでも守ろうと思える可愛い三つ子の弟たちが……大好きな人たちがいる世界だ。大好きな優しいお母さんとの思い出がある世界なんだ。
どれだけ目を逸らしたって、見えない振りをしたって、それだけは絶対に誤魔化せない。
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