21: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:04:14.74 ID:ggin5fGOo
もう一度背伸びをしてからしおりを挟んだページを開く。本を読むということが習慣付いてない私にとって短編集っていうのはすごく都合良かった。彼女が勧めてくれるのは所謂古典って呼ばれるような作品が多かった。私でも作者か作品の名前のどちらかを知ってるような。古典って言われたらなんだか身構えちゃうけど、実際読んでみるとスラスラいけちゃうし、なにより一編自体がそんなに長くないから「ここまで読もう」がやりやすかった。たまーに見慣れない言葉につまずくことはあったけどささいなことだった。それに、この読書という行為が私の日常の中に当たり前に入ってるものじゃないっていうのがなんだかドキドキした。知らない場所に行くときの気持ちに似てた。それも続いている理由だとおもう。
22: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:04:51.60 ID:ggin5fGOo
「そ、それ、どう?」
「本?」
23: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:06:32.00 ID:ggin5fGOo
さて。
「なに読んでるの?」私がそう聞くとなにかをカウンターの下に隠すような動きをして「あ、えっと、さ、参考書」って、明らかに怪しい。隠されると見たくなるのが人のサガ。そっかぁ、って興味ないですよーなんて言いながらじいっと見る。すっかり元に戻った顔色がまたトマトみたいに赤くなってきた。しばらくして机の下からおそるおそると出てきて真っ赤な顔を隠したのは私がいつも読んでいる旅行雑誌だった。
24: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:07:00.54 ID:ggin5fGOo
「面白いよね、それ」
「うん」雑誌がちょっとだけ下がって目が見えたけど、視線は外れてた。
25: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:08:49.75 ID:ggin5fGOo
目が合った、ばっちり。
「今は無理だけど」
26: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:09:25.39 ID:ggin5fGOo
「パスポートって、どうやって作るんだろう……」
27: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:10:12.75 ID:ggin5fGOo
* * * * *
28: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:10:52.09 ID:ggin5fGOo
「聞いていいのかわからないけど」
「そう言うってことは聞きたいんでしょ?」
29: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:12:02.14 ID:ggin5fGOo
キッカケはなんだったっけな。思い出そうとしてもこれってわかりやすいものはなくて、拾ったものを消去法で減らしていくと最後に残ったのは、予定が合わなくなって自然消滅、なんてありきたりなものだった。だんだんと連絡の頻度が減っていって、意味もなく気まずくてこっちから連絡することもできなくなった。そして私はアイドルになって上京したわけで、物理的な距離も遠くなってしまったという。
「そういうところもあったんだな」
30: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:12:34.26 ID:ggin5fGOo
「それだけ大切ってことだろ」
真っ黒なコーヒーを持って帰ってきたプロデューサーの言葉に「大切?」って聞き返して「相手のことを」
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