15: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:56:50.62 ID:ggin5fGOo
「本のリクエストって図書委員に言えばいいのかなーって」
カウンターに座っているから図書委員だって決めつけて話しちゃってるけど、これで違ったらどうしよう。そんな私の不安を飛ばしてくれたのは一枚の紙だった。
16: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:57:27.90 ID:ggin5fGOo
リクエスト用紙を受け取って「ここに書けばいいの?」って聞くと、「はい」ってまた敬語。イヤってわけじゃないし別にいいんだけど、それが慣れなすぎて背中がこそばゆくなる。
「敬語じゃなくていいってば」そう言うと、目の前の彼女はちょっと照れたみたいに笑った。あ、笑った顔、かわいい。
17: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:58:00.04 ID:ggin5fGOo
「雑誌って置けるのかな?」
図書室を使ったことがないのが丸わかりな質問だなぁ、なんて口にしてから気づいた。
18: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:59:14.28 ID:ggin5fGOo
*
19: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:01:16.93 ID:ggin5fGOo
本を読まないってわけじゃなかった。ただ本を読むって習慣がなかっただけで、これでも小学生のときは図書委員をやったことだってある。まぁ、じゃんけんで負けちゃったからって理由なんだけど。そうだ、小中学は読書週間ってものがあって、朝か昼かに必ず本を読む時間があった。高校にはそれがないって義務教育外だから?
机の上で猫みたくぐいーんって腕を伸ばして大きなあくびをした。ガマンしたつもりだったんだけど声が出ちゃってたみたいで「眠くなっちゃうよね」ってまた余計うつらうつらしそうな優しい声がカウンターから届いた。
20: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:02:23.93 ID:ggin5fGOo
私がリクエストした雑誌が図書室に置かれることはなかった(なんとなくわかってたことだけど)。じゃあ本もまともに読まない私がなんでここに? って自分でもおもう。友達にも担任にも同じ質問をされたけど、毎回答えは「さぁ?」で、そして返ってくるのは「芽衣子(担任からは並木)らしいね」って、こっちも頭の上にハテナを飛ばすことになる。
「ひどくない? それが私らしさって、もうひどいの二乗だよ。友達に言われるならまだいいけど、それが教師の言うことかーってさぁ」
21: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:04:14.74 ID:ggin5fGOo
もう一度背伸びをしてからしおりを挟んだページを開く。本を読むということが習慣付いてない私にとって短編集っていうのはすごく都合良かった。彼女が勧めてくれるのは所謂古典って呼ばれるような作品が多かった。私でも作者か作品の名前のどちらかを知ってるような。古典って言われたらなんだか身構えちゃうけど、実際読んでみるとスラスラいけちゃうし、なにより一編自体がそんなに長くないから「ここまで読もう」がやりやすかった。たまーに見慣れない言葉につまずくことはあったけどささいなことだった。それに、この読書という行為が私の日常の中に当たり前に入ってるものじゃないっていうのがなんだかドキドキした。知らない場所に行くときの気持ちに似てた。それも続いている理由だとおもう。
22: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:04:51.60 ID:ggin5fGOo
「そ、それ、どう?」
「本?」
23: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:06:32.00 ID:ggin5fGOo
さて。
「なに読んでるの?」私がそう聞くとなにかをカウンターの下に隠すような動きをして「あ、えっと、さ、参考書」って、明らかに怪しい。隠されると見たくなるのが人のサガ。そっかぁ、って興味ないですよーなんて言いながらじいっと見る。すっかり元に戻った顔色がまたトマトみたいに赤くなってきた。しばらくして机の下からおそるおそると出てきて真っ赤な顔を隠したのは私がいつも読んでいる旅行雑誌だった。
24: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:07:00.54 ID:ggin5fGOo
「面白いよね、それ」
「うん」雑誌がちょっとだけ下がって目が見えたけど、視線は外れてた。
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