一ノ瀬志希「ほころび」
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80:名無しNIPPER[saga]
2019/04/29(月) 00:07:30.00 ID:SYS+AFC90
 ――夕美ちゃんの失踪は、実に鮮やかだった。

 部屋に着くと、そこら中に咲き誇っていたはずの花々はすっかり姿を消していた。
 それだけじゃない。
 服も、小物も、冷蔵庫も洗濯機も、ベッドやテーブルといった諸々の家財も、全部無い。

 そっくりそのまま、新規の入居者を待つ空室そのものだ。
 まるで、夕美ちゃんがそこにいたことすら、ウソみたいに。


 大家さんに聞いても、首を捻っていた。

 元々この部屋は、アイドルのために事務所が借りているものだ。
 利用の有無に関わらず契約が続いているから、入居者がいない状態も珍しいことではない。
 そして、退去する際にアイドルが大家に対し取るべき手続きも、特にないのだ。


 誰にも連絡を寄こすことなく、行方をくらます――。

「俺達が知っている夕美は、こんな事をするような子だったか……?」

 もぬけの殻となったリビングの窓から夕日が差し込み、遠くで電車の通る音が聞こえる。
 部屋に立ち尽くすプロデューサーの顔は、呆然としていた。

 あたしも、今、どんな顔をしているだろう?



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