11: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2019/04/09(火) 00:41:25.48 ID:Tnjuxph+0
◆◇◆
おはようございます、千川ちひろです。比奈ちゃんのプロデューサーさんは昨日の欠勤の件で部長と話していますね
「フグ毒に当たったって聞いたけど本当に今日出勤して大丈夫なの!? フグの毒だよ!?」
「え、へ? は?」
昨日適当に「体調不良で欠勤です」と吐いた嘘が、事務所内で回り回ってフグ毒にあたったことになっているようです。どうしてですか?
「ぼ、僕は大丈夫なんで! ご心配をおかけしました!」
「そう? なら良いけど……テトロドトキシンだよ? 本当に大丈夫?」
「だいじょんび、だい、大丈夫です! はい!」
大丈夫の応酬を繰り返した後、部長さんは去って行きました。プロデューサーさんが「フグ毒……?」と首をかしげています。首をかしげたいのはこちらの方です
資料作成も一息ついて、少しトイレにでも行こうかとした時でした
「……お、おはよう、ございまス」
「っ……おはよう、比奈」
プロデューサーさんとは違って、本当に体調を崩していた比奈ちゃんが来ました。今日は午後からレッスンのハズですが、先にこちらに顔を出しに来たのでしょうか
プロデューサーさんの鞄にはプレゼントがまだ残っているようでした(さっき確認しておきました)。昨日渡せなかったのでしょうか
プロデューサーさんが席を立って、比奈ちゃんの前まで行きます。私は固唾を呑んで見守ります
「「ごめん「なさいっス!」」
「へ?」「ん?」
2人ともが頭を下げ、2人ともがごめんなさいをしています。そして2人ともが困惑をしています
「僕は……昨日、濡れタオルの件とか、比奈のスケジュールと体調の管理が出来てなかったから」
「アタシは……体調管理と……濡れタオル、の……」
体調管理と濡れタオルってどういうことなんでしょうか。まったく関連性が分かりませんが
2人ともが少しぽかんとした後に、ぷっと空気を吐く音がして、すぐに笑い声に変わりました
……私、ここにいない方が良いですね。トイレに行きましょう
向き合っている2人の笑い声が続いている内に、そそくさと部屋を退散しました。ドアをゆっくりと閉めている途中、2人の会話が聞こえます
『……ありがとうございました、野菜とか、病院とか、色々と、ホントに』
『礼なんて……こっちは、その、大きすぎる無礼を』
『アタシがちゃんとしてなかったのが問題っスから、謝らないでくださいっスよ。それにそこまで……いや、何でもないっス。とにかく、もう謝らないでほしいっス! アタシは感謝しているんスから!』
『……うん、わかった。謝るのはやめる! ごめん!』
『また謝ってるっスよ!』
また笑い声がしました。とても楽しそうな声色で、ドアを締め終わっても、暫くそこに立って聞きたくなってしまいました
『ちょっと待ってて。昨日渡せなかったんだけど、よかったらこれ……』
『え!? これ! あの! 予約諦めてた!』
『そこまで喜んでもらえるなんて……』
『ありがとうございまス! うわっ! え、うぅっわぁ……すご……』
笑顔が伝わる声。跳ねるような明るさを纏った音が、ドアを一枚挟んで響きます。少しにやけてしまいますね、これは
そろそろ、本当にトイレへ行きましょうか。ちょっと遅れた誕生日を、これ以上盗み聞きするほど野暮ではありません。
2人だけの良い思い出は、2人だけで楽しんでいただきたいですしね
2人の会話を世に、私は廊下を歩いて行きます
ああ、そうだ。まだこれを言えてなかったですね。……でも、今日はきっと、あの人からもらう分で両手一杯になると思うから、私は心の中で呟くように
Happy Birthday、荒木比奈ちゃん
【おしまい】
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