30: ◆2DegdJBwqI[saga]
2019/03/28(木) 05:25:45.79 ID:nSzXe2Weo
卒業だね、と言われて、智子は何も答えなかった。
沈黙を守っていた。
笑美莉は、無意識に下唇をかみしめていた。
カウンターテーブルのしたで、膝の上にお行儀よく揃《そろ》えられた笑美莉の両手は、力強く握りしめられ、強張っていた。
その片方を、優しく包むものがある。
智子の手のひらだった。
おかげで笑美莉は、すごく安心する。
笑美莉は、智子が好き。
――智子も、笑美莉が好き。
それが、都合のいい妄想ではなく事実だという日頃の確信をより一層強化する。
智子を好きという感情で胸の中がいっぱいになる。
だから、
「付き合って」
という言葉が、笑美莉の声帯を震わせる瀬戸際まで、喉の奥からせり上がる。
にもかかわらず、
「付き合って」
そのささやかな言葉が、どうしても出てこない。
重なったお互いの手のひらが、じわじわと汗ばんでいくのが笑美莉にはわかった。
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