不死講
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4: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/02/22(金) 19:55:58.25 ID:Q3Zc+mWd0

――――――

「いやあ、博士の発明は世界を変えてしまいましたねえ」

若さを取り戻し、筋肉ではち切れそうな白いシャツを着た博士は、もくもくと電卓を叩いている。
助手の称賛の声は、博士には届いていないようだ。

「そういえば、こんな話を聞きましたよ。とある冒険家が首狩り族に殺されたそうなんですけど、刈り取られ晒されていた頭から体が生えて村から逃げ帰ってきたそうです」

「実はこの話には続きがありまして、村に残った胴体からも頭が生えて無事に帰還したって言うんです。この場合、どちらが本人なんでしょうね?」

助手の問いかけにも、やはり博士は答えない。

「まったく、今どき仕事に情熱を注いでいるのは博士ぐらいのものですよ」

不老不死の薬は、世界を大きく変えた。
あまねく医療関係者を退職へと追いやった一方で、科学技術や芸術の分野において一段越しでの発展を成し得たのだ。
それもそのはず。好きでもない仕事を、生きていくため、飯を食べていくため、家族を養っていくためだけに勤めていた人々が、その楔から解放され。
自身の興味のあることにのみに、力を注ぎだしたからだ。

優秀な頭脳を持った医療関係者たちの一部が、別分野の仕事へと転職したこともその世の流れに拍車をかけた。

科学は、もはや魔法と見分けがつかないほどに発達し。
美術館には伝統と前衛が両立した作品がこれでもかというほどギュウギュウ詰めにされるほどである。

人々の生活圏も、あっという間に宇宙まで広がり。今では、太陽系の外に達した者も居ると噂されているほどだ。
しかし、そうした人類の進歩も長くは続かなかった。

「なにせ時間は無限にあるのだ、焦ってどうなる。ゆっくりいこうぜ」
とある作詞家の書いた曲の一節であるが、これが人々の心を打ったのだ。

永遠の時を手に入れた人々は、いつしか無限の怠惰を享受するようになり。技術や芸術の進歩に力を注ぐものは徐々に減っていってしまった。
そうして世界は堕落的で無変化なものへと落ち着いてしまったのである。

「ねえ博士、アンデッド溢れる世界で今度はどんな薬を作ろうって言うんですか?」

「……止めてくれるな助手よ。どうやら、私が飲んだ不老不死薬は後に作られたものよりずっと強力だったらしい」

「どういうことです?」

「我が情熱は、一向に止まる気配がないのだ。どうやら、肉体と共に私の情熱までが不老不死となってしまったらしい」

「それはまた難儀なことですが仕方ないですね、特にすることもないのでお手伝いしますよ。それで何の薬を作ろうとしているのですか?」

博士は、電卓をたたき続けていた手を止め助手のほうを振り返りニヤリと笑った。

「不老不死者を殺す薬さ」


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