29: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/04/07(日) 17:52:52.12 ID:NdD66LHM0
「シュレディンガー。君はこの世界についてどう思う」
戯れに猫に語りかけてみる。
君と初めて会った時、僕は心底驚いたんだ。
だってこの世界には、普通の人間がいないのと同様に普通の猫もいないからだ。
四足歩行で歩き、「みゃあ」と鳴く猫なんていの一匹も存在しない。
代わりとばかりに逆立ちして歩きまわり、あまつさえ「みゃあ」となく男ならいるかもしれない。
もしくは、「わん」となく猫の頭をもった人間なら……。
だが、シュレディンガーに限って外見も中身も正真正銘の猫そのものなのだ。
なるほど、その点。
ラジカセという至ってまともではない外見であるものの、中身は至ってまともである僕とはまた違う存在なのかもしれない。
「やっぱりシュレも、狂ったこの世界で僕と同様の正常者なのかい」
「いや、狂っているのは世界じゃない。君だよ」
シュレは、この機をの逃してたまるかと言わんばかりにその二本の後ろ足で懸命に立ち上がり話し始めた。
右手にはさっきまで僕が飲んでいたウイスキーの瓶を持っている。まったく器用なものだ。
「ああ、やっぱり君もこの世界の住人だったのか」
僕は少しだけがっかりしたが、それでも相棒と言葉を交わすことができてそれなりに嬉しくも思った。
だって、たったひとりで喋りもしない猫に語り掛けるよりは、小粋な掛け合いを楽しんだほうが健全じゃないか。
55Res/61.12 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20