少女は死ぬまで生きるようです
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7:はみがき
2019/02/10(日) 11:42:42.62 ID:eA0evHgOO
『サーチライトに撫でられるまで』第6話

「ねぇ、百夜」

「んー?」

「よかったの…?あんなことしてあとで怒られない?」

「いいんだよ。一度きりの人生…好きなことやるべきだ」

「でも百夜は死神だよね。そういえば死神に寿命とかってあるの?」

「んーとね…ないといえばないし、あるといえばある」

「なにそれ」

「ほら…死にもいろいろあるだろ?心臓が止まったときとか、人に忘れられたときとか」

「……そういうもんかな」

「そういうもんだよ。お、詩織の言ってた楽器屋さんってあれ?」

遠くに丸太づくりの小屋が見えた。行きつけの楽器屋だ。

「そうだよ。開いてるといいんだけど……。お邪魔しまーす」

「っらっしゃい」

ここの店主は風変わりな人だ。痩せこけた頬にデニム生地のエプロンをして、いつも煙草を咥えている。人通りの悪い森の麓に小屋なんか立てて、看板も出していないのだから。それでもそこらの店より、品揃えはいい。

「……と…これとこれください」

「あいよ。1500円ね」
どうやら百夜は透明化しているようだ。いくらこんな店主とはいえ、姿を見せるべきではないと踏んだのだろう。

「ありがとうございます」

「そりゃこっちの台詞だよ。こんなとこまでいつもご苦労さん」

結局切れてしまったギターの弦と真っ赤なピックを買った。涙みたいなかたちで、なんだか私にあっている気がしたのだ。

「お目当てのものは買えた?」

「うん。でも満たされちゃったから、行きたいところがなくなっちゃった」

「旅に行き先は必須じゃないよ。でも……キミのギターが聴きたいな。何処か落ち着けるとこないの?」

「じゃあ…時計台に行こう。周りにベンチがたくさんあるんだ」

「よーし、決まり。曲のリクエストをしてもいいかな?」

「私の知ってる曲なら……」

「そこまで有名じゃないからなー。えーとね、秋田ひろむって人の『少年少女』って曲なんだけど」

「あっ、それなら知ってる。amazarashiの人だよね」

「おっ、知っててよかった。趣味が合うねー」

なんて会話をしながら私たちは時計台へと赴く。
透明な死神と楽しげに会話しながら歩く私は、他人からどんな目で見られているのだろう。

そんなことを今まで気にしていなかったことにようやく驚いて、なぜだか涙が出てきた。なんでだろう。

そんな涙に気づかぬフリをしてくれる百夜の優しさが、今はあたたかかった。



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