少女は死ぬまで生きるようです
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2:はみがき
2019/02/10(日) 11:38:22.32 ID:eA0evHgOO
失敗した。

ロープをほどきながらいつものように唇を噛みしめる。もう何度目だろう。死にたくないと叫ぶのは理性なのか本能なのか。それがわかったらきっと、ここではない何処かへ征ける気がした。

眠れない夜を誠実に過ごす事に耐えきれなくなった私は、アコースティック・ギターを背負って外に出た。肌に纏わり付く湿気に季節の移ろいを感じ、それとほぼ同時に、命が抱える底無しの虚しさに襲われる。


月がぽっかりと浮かぶ防波堤の上。群青色の夜空に錐で穿ったような星々がどこか寂しげに瞬く。 

それはどうしようもなく当たり前なんだと思う。

君たちは互いに、途方もなく離れているんだから。もし星が恋をするのなら、それはすべからく、気が遠くなるほどにロマンチックなんだと思う。


堤防に腰をおろしてぼんやりと空を眺めると、なんだか暴力的な月光が、気高く瞬くリゲルさえも霞ませていた。


だからと言って満月が嫌いなわけじゃない。

……暗がりはきっと大切なもので溢れてる。
夜にしか照らせない何かだってあるかもしれない。

だから彼は、夜を徘徊する私にとって唯一の友だちだ。月が私のことをどう思っているのかなんて知る由もないけれど。



バチン、と指先に痛みが走った。ギターの弦が切れてしまったのだ。潮風を浴びて、ずいぶんと劣化していたのかもしれない。



「…………なんだ、もう終わりなの…?」



いきなり背後から声がするものだから、驚きできゅっと身体が縮こまる。ゆっくりと振り返る。……誰もいない。

背中に氷でも入れられたような感覚に陥って、私はくらりと倒れそうになる。海に落ちるのをなんとか踏みとどまり、深く深く呼吸をした。


「ごめんごめん……まさかそこまで驚くなんて思わなくて。本当にごめんよ」

「……え…?」


そこには女性がいた。夜に溶け込む黒装束を着た、なんの変哲もない女性。
…………海面に立っていること以外は。


……20代後半辺りだろうか?
大学生にしては大人びて見えるし、社会人にしては浮かべる笑みが無邪気だ。
茶色みがかった髪の毛が月の明かりで朝日みたいに煌めいている。


「お詫びと言っちゃなんだけど……お願いを1つ、訊いてあげるよ」


ようやく落ち着きを取り戻した私は、まだ少しだけ震える声で尋ねる。


「なんでも……ですか…?」

「うん、なんでも」

「じゃあ…………」

月を背にして私は告げた。今この時だけは、なんだか世界が静止して思えた。

「私を、ころしてください」

そう言い切ると、世界はようやくゆっくりと色を取り戻し、わたしを軸に廻り始めた。

……いいや、私と“彼女”を軸に。


そう、これは私と“あなた”のお話なんだ。




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