76: ◆GO.FUkF2N6[saga]
2018/12/26(水) 18:54:00.22 ID:9rFSBGbj0
「いっつもおいしいご飯をつくってくれてありがとうごぜーます。お勉強わかんねーことがあったら教えてくれてありがとうごぜーます。いっつも仁奈とお昼寝してくれてありがとうごぜーます。ライブのときに走って応援に来てくれて、ママにお願いしようって言ってくれて、ありがとうごぜーます」
「……」
「仁奈はこわがりで、できねーこといっぱいあって、心配なことばかりでごぜーます。でも、そんなときは志希おねーさんの気持ちになるですよ。志希おねーさんみてーになんでもできるママになりてーって。そうしていっつも勇気をもらってるでごぜーます」
──ママの気持ちになるですよ。
「仁奈、ちゃん」
それじゃあこのママっていうのはあたしのことで。
ライブのときも、ママにお願いするときも、あたしのことを思って。
仁奈ちゃん。
あたしたち、まだお互いのことなんにもわかってないんだね。
あたし、ぜんぜんすごくなんてないよ。
キミみたいに人の気持ちを理解することなんてできないし、そのせいでキミをたくさん傷つけて泣かしてしまったこともあった。
そんなあたしを、キミは理解しようとしてくれてるの?
あたしがママでよかったって、ほんとうにそう思ってくれてるのかな?
仁奈ちゃんはニコッと満面の笑みを浮かべて、その手紙をあたしに差し出した。
「いっつも仁奈といっしょにいてくれてありがとうごぜーます。志希おねーさんは、仁奈の自慢のママでごぜーますよ!」
その手紙に向かって手を伸ばす。
1回失敗して、2回目にようやくつかむことに成功した。
大きな拍手が鼓膜を振動する。
「ぐすっ。ありがとうございました。一ノ瀬さん、なにかコメントをお願いします」
「……」
あたし、やっぱり母親なんかじゃない。
こんなときなのに、なにも言葉が出てこない。
たっぷりと時間を使ってあたしが絞り出せたのは、この言葉だけだった。
「ありがとう、仁奈ちゃん」
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