59: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/14(水) 19:37:43.02 ID:oG3MxUaR0
「……あの男を見つけたらワープする能力が欲しい」
「良いだろう。対価は……そうだね、君の過去の悲哀の感情を頂こうか」
「構わない」
「鮮度が落ちるし、君という人格が壊れない程度にしか吸えないから、無制限の能力にはできない。精々、1回の睡眠につき3回までだ」
クォ・ヴァディスは右手の指を3本立てた。
「……とりあえず、それでいい。頼む」
「前回の契約と違って、思い出のイメージと感情を思い出すことはもうできなくなるけれど、いいのかい?」
俺は頷いた。
悲哀を食らう悪魔は、少しだけ寂しそうに微笑んで、人差し指の先を俺の額に立てた。
悲しかった思い出の光景が、俺の中から消えていく。
その時、どれほど悲しかったか、辛かったのか、その悲しみがあったからこそ味わえた幸福でさえも、吸い取られた。
100m走で負けた時の悔恨。
ペットが亡くなった時の慟哭。
じいちゃんの葬式で流した涙。
手を握って慰めてくれた彼女の、温もり。
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