4: ◆U.8lOt6xMsuG[sage]
2018/10/19(金) 00:04:49.51 ID:TYKVB7XU0
どうしてそう決めたのか。いつ頃から考えていたのか。詳しく訊かせてほしい。
彼の質問に、私は一つずつ答えていく。自分がそう思うように至ったまでを話す。言葉を紡ぐには時間がかかって、一時間くらいは話した気がした。実際は15分も経ってなかった
全てを話して、訊かせた後、彼は口元に手を当てて机の上を見つめていた。
「反対したい気持ちだってあるよ。今だってそう考えてる。でも、比奈の意志なら、僕はそれを尊重したい」
「……」
私の方は見ずに、彼は口を動かす。
「比奈が考えて考えて、考え抜いて出した結論なら、僕がそれに反対する義理も道理もないからね」
「……っスか」
「5年も一緒にいるんだ。比奈がどう思っているかくらい、少しくらい分かるよ」
全部は流石に分からないけれど、と彼は初めて笑みを溢そうとした。引きつっていて、お世辞にも笑っているようには見えなかった。
「……引退って意志は、揺るがないんだね」
「……はい」
「わかった」
彼がまた大きく息を吸い込んだ。少し背中を反らせて、また私に向かい合う。
「最後まで、頑張ろう」
真っ直ぐ見つめる瞳。そこに映り込んだ私は、うるんだ瞳をしていた。
34Res/38.27 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20