27: ◆U.8lOt6xMsuG[sage]
2018/10/19(金) 01:01:52.55 ID:TYKVB7XU0
また裏路地に入る。人通りはほとんど無くて、たまにランニング中の人とすれ違う程度。
「……いろいろ、思い出しちゃったな」
「……アタシも、そんな感じっス」
「なんか……なんか、うん、何だろうこの気持ち」
二人で歩いた5年間。それは、とっても長くて、あまりにも短い。出会ったときのことがつい最近の事のように感じるし、初めての営業も、ラジオも、ライブも、全てが懐かしくて、でも昨日の続きみたいだ
家まで送ってもらうことも、何度もあった。その間に出会った出来事は、色も匂いも、考えていたことも、鮮明に思い出せる。
見上げて、二人で指さした飛行機雲。尻尾だけ揺らしていた野良猫。夜遅く、二人同時にあくびをしたこと。
どうでもいい、なんてこと無い、大切な出来事。それらばかりが思い浮かぶ。一つを思い出すと、紐付いて他のことも思い出す。帰り道だけじゃない、日常の記憶
突風で飛ばされた傘。プレゼントしてもらったペンタブ。心霊ロケでいったダム。見渡すばかりの向日葵畑。
宅配のお兄さんと間違えた朝。名前が同じだったひな祭り。水色の浴衣と、虹色の花火。
ガチャガチャのおもちゃ。一緒に囲んだキャンプファイヤー。
二人旅で訪れた駅。狭い中で一緒に漕いだスワンボート。
冬に眺めたイルミネーション。夏に参戦したコミケ。
全部が、全部が、どっと押し寄せてくる。私が歩んできた過程で手にしてきたもの。それを思い出すと、ずっと我慢していた涙が、堰を切ったように止めどなく溢れてくる
「ごめん、比奈……色々思い出しちゃって……」
二人で過ごした、同じ日々の記憶。それを、彼も思い起こしているようだった。
私は眼鏡を外して、裾口で涙を拭う。彼は、手のひらで、同じように目元を拭っていた。
「ごめっ、ごめん……こんなハズじゃ、無かったのに……」
「Pさっ、アタシ……ぐずっ……」
潤んだ視界の端に、彼を捉える。歩きながら、彼もまた泣いていた。
顔を見合わせる。泣き顔をみると、またより一層涙が止まらなくなって、互いに号泣する
止めないと、止めないと、そう思っても、美しい思い出たちが邪魔をした。
二人して大泣きしながら、家路を辿る。拭いすぎて目元がヒリヒリとしていく。
しゃくりあげる中、私達は何度も「ありがとう」と言い合った。何度言っても足りなかった。
涙越しの夜空、星が滲んで輝いている。私達は、もう一つ二人だけの思い出を増やしながら、家路を辿った
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