11: ◆U.8lOt6xMsuG[sage]
2018/10/19(金) 00:08:38.81 ID:TYKVB7XU0
◆◇◆
僕たちは、終わりに向かって動いていた。最後のライブに向けたレッスンが増え、代わりに普通の仕事が減っていく。
インタビューも、バラエティ収録も、ラジオも、歌番組も。アイドル荒木比奈が世間の目に触れる時間と回数は、残り少なくなってくる。
虚無感を、四六時中味わった。
荒木比奈がアイドルでいる時間。それは本来、限られたものだ。無限だと思っていたけれど、実際は有限で、あたり前にいつか終わりが来る
無意識に目を背けていた。それに、ようやく気がついただけのことだ。
夏になって、また例のお祭り用の原稿を手伝った。こんな毎年恒例のことも、5ヶ月後の冬からはなくなるのか。そう思ったとき、実家の猫が死んだときと同じ気分になった
どうあがいてもとりかえせないという、嫌な感覚だった。
でも、その感覚を味わう度に『最後まで、頑張ろう』と、僕が比奈に言ったことを思い出す。『頑張るっスよ』と彼女が決意したことを脳に浮かべる。
『終わり方』を格好つけて考えたくせに、僕はまだブレブレで、女々しくて、弱気になることが多くある。けれど、比奈は僕とは違って、『終わる』という当たり前のことを理解して、前を真っ直ぐ向いて、最後に向かって毅然と歩いて行っている。
だから、その横に、恥じることなく立てるように。並んで歩いて終われるように
決意した比奈の姿を、思い出す。
「前からひっぱってたつもりなんだけどな」
いつの間にか、支えることも、引っ張ることもなくなって、並んで歩くことの方が増えた。
それに気がついたとき、夏が終わる匂いがした
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