15:名無しNIPPER[sage saga]
2018/08/26(日) 00:54:23.75 ID:BsXQ9LjA0
夕暮れの街には昨日と変わらずセミの声と河の匂いがする。少し過ごしやすくなった気温の中で、あの歌を思い出して口ずさんでみる。どこまでも広がるグラデーション。よく聞いているわけでもないのに、歌詞がどんどん出てくる。そういえば一度収録したことあったな、と思った。
サビまで歌って、何か物足りなくて、やめた。
「ねぇ」
誰かが隣にいる気がして、声に出してみた。
「上手く歌えとった?」
誰も答えてくれない。誰もいないのだから。
「ねぇ、……浴衣、似合っとる?」
それでも尋ねるのをやめられなかった。お盆にはまだ早いけど、もう帰ってきている気がしてならなかった。
祖母もこの浴衣を着て花火を見ていたのだろうか。見ていたに違いない、と思う。祖父の笑顔から、この浴衣に思い出が詰まっていることは明らかだった。二人で並んで眺めていたのだろう。祖母の隣には、祖父がいたし、祖父の隣には、祖母がいた。
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