79:名無しNIPPER
2018/08/12(日) 00:55:37.02 ID:w6V3e5/y0
キーボードを打とうとしてた手が止まり、プロデューサーさんが顔を上げた。
無言で伺ってくるプロデューサーさん。私は言葉を続けた。
「奥さんと……娘さんになにがあったかも……」
「誰から聞いたんだ」
関ちゃんプロデューサーの名前を挙げると「そうか」と、小さく呟いた。
彼は落ち着きの無さそうに指で机を叩いていたけど、深く息をついた。
「だからって、それを理由で仕事の手を抜いたことはないつもりだ」
「それは分かってます。さっきも言ったじゃないですか。私がここまで来られたのは、プロデューサーさんのお蔭だって。本当に感謝してます」
「じゃあ、それがどうかしたのか」
彼の口調は微かに厳しくなった。怒りなのか、悲しみなのか。私には分からなかった。
「どうって訳では……ただ、私が知ったことを知っていて欲しかったんです。私が知っているとことをプロデューサーさんが知らないのは……なんだか、嫌だったんです」
うまく言葉にできなかった。そのことはプロデューサーさんにとってはとてもではないが無視できないことで。
きっと、誰にも触れてほしくない傷口で。
でも私は、知ってしまって。
きっと後ろめたかったのだ。プロデューサーさんに対して。
口にしたところで、なにかが変わる訳ではない。変わる理由はない、と思う。
「じゃあ、プロデューサーさん、お疲れ様です。次のお仕事は……ラジオですよね」
「ああ、そうだな」
私は小さく頭を下げて、部屋を出ようとした。
「ほたる」
振り返った私を、プロデューサーさんはじっと見つめていた。
何を言おうとしたのか、私には分からなくて。きっと彼は、言いたい言葉を飲み込んだ。
「……次は、明後日だな」
「はい。よろしくお願いしますね」
そうして今度こそ、私は部屋を出た。
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