70:名無しNIPPER
2018/08/12(日) 00:44:22.30 ID:w6V3e5/y0
やがて、ゆっくりと彼が体を離す。
「さあ、戻るぞ」
「はい……」
立ち上がろうとしたけど、私は足に感じた痛みに顔を小さく言葉を漏らした。
「大丈夫か、どこかぶつけたのか。岩場で切ったり……」
「いえ……そうじゃなくて。少し足を捻っちゃって。前と同じ所を……」
「足を?」
彼は屈むと、足首を確かめる。私は少し顔が熱くなった。
「少し腫れてきてるな。おぶってやる」
「えっ?」
驚いている私をしり目に、彼は私にしゃがんで背を向けた。
「ほら、早く」
「いや……いいです……大丈夫ですから」
「足を怪我してるんだ。大丈夫なわけないだろ。ライブ後だ。疲れてて足元も覚束ないだろ。帰る途中にまた捻って、悪化したらどうするんだ」
私としては気恥ずかしさが強かったけど、疲れているのは確かだし、プロデューサーさんの行っていることは尤もに思えてきた。
「……それじゃあ」
私は恐る恐る、プロデューサーの背中に抱き着く。彼はちょっと反動をつけて、立ち上がった。おんぶしてもらうなんて、いつぶりだろうか。気恥ずかしさもあったけど、その背中に身を預けると、不思議と心が落ち着いてきた。
彼はゆっくりと歩き出す。
「夜に出歩くだけで危険なのに、こんな足場の悪い場所だったら尚更だ」
「ごめんなさい……」
私だけが悪いとは思えなかったけど、なんだか否定する元気はなかった。
心から心配してくれていたのは本当で、それをとやかく言いたくはなかったから。
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