川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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2: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 00:45:48.74 ID:Ai+XpKnp0
冬風がコートをたなびかせる。
28回目の冬、と川島瑞樹は思った。

アナウンサーになってからは、6回目の冬だ。

仕事には十二分に慣れた。
他者の幸福をさえずり、他者の悲劇を詠い上げる仕事には。

女子アナウンサーは瑞樹に合っていた。
華やかな面立ちと、聞く者の耳に沁みわたる、澄んだ声。

彼女は瞬く間にトップアナウンサーの座に登りつめた。
だが、仕事のスケールと瑞樹の心は釣り合っていなかった。

彼女は仕事に対する情熱に満ち溢れている。
一方仕事の方は、彼女がしてきた努力ほどには、彼女に報いない。
たしかに稼いだ。老後はそれなりに過ごせるだろう。たが、老後はまだ先。

仕事は続く、いや、瑞樹としては続けたいのだか、周囲がそれを許さない。

上司も同僚も部下も、友人も家族も、「そろそろ良いひと見つかった?」と、そればかり言う。

“女の”幸せを掴みに行け、と。

私の幸せは、仕事を続けることなのに。
周囲はアナウンサーとしての私を消し去ろうとする。

瑞樹としても結婚生活に憧れないわけではないが、家庭をつくるほどには、まだ自己犠牲精神が豊かではない。
もっと華やかな世界で、バリバリ働きたい。上を目指したい。
瑞樹はそう願っている。



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