23:名無しNIPPER[saga]
2018/07/13(金) 08:23:59.35 ID:eCrKDArS0
「渋谷さんは本当にハナコちゃんのことが好きなんですね」
「まあ、ね。……あと、凛でいいよ。名前」
自分で言いながら凛はむず痒そうな顔をした。
「じゃ、じゃあ、凛……さん」
「呼び捨てでいいってば」
「えっと、凛……ちゃん」
凛はいかにも不服そうに首をかしげたが、「まあいいや」と言って流した。
「あ、もうこんな時間? ごめん、長々と引き止めちゃって……ジョギング中だったのに」
辺りはすっかり暗くなり、街灯がぽつぽつと明かりを灯し始めていた。
「ううん、私……今日はそんなに走るつもりなかったですから」
これは嘘である。卯月は、本当は走り込むつもりでいた。
が、こうして凛と出会い、気晴らしとは言えないものの立ち止まって振り返るきっかけを得られたことで、
卯月は自分が必要以上に焦っていたことに気付いたのである。
「それじゃ、わたしはこれで」
「あ、あの!」
夕闇に立ち上がり、ハナコを連れて帰ろうとする凛に、卯月はためらいがちに声をかけた。
「今週末、商店街でライブをするんです。それで、よかったら凛……ちゃんも、どうですか?」
自分でも思いがけない提案であった。
しかし今となっては不思議と凛に対する偏見は薄れ、むしろ親しみの感情すら沸き起こってくることに卯月自身びっくりした。
凛もまた驚いたように振り返り、一言、
「わかった」
とだけ言い残して帰って行った。
71Res/65.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20