一ノ瀬志希「今、まゆちゃんにキスしたら」
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4: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/07/07(土) 09:44:04.27 ID:YKwXScl5o




――午前0時まだ踊ってたい 鳴り止まないMusic on the Stage
――可愛い人形演じてたって そっちもイマイチのりきれないでしょ
――罪深い偽物なら キミからもいっそNOと言ってよ

まゆちゃんは失踪した。プロデューサーに告白して玉砕したんだろう。
プロデューサーはまゆちゃんをうろうろ探し回っていた。
あたしも探すように頼まれたけど、今まゆちゃんは顔を合わせたくないだろうなぁと思ったので手伝わなかった。

どうせ仕事もレッスンもまゆちゃんなしでは片手落ちなので、あたしも失踪した。
そのまま、まゆちゃんの匂いをたどったら、けっこう遠いところに隠れていた。

「……あなたは、志希さんは、ずるい」
「どうして?」

あたしを見上げてくるまゆちゃんの目は吸い込まれそうなほど透き通ったままで、
まゆちゃんのカラダが無事なのと同じくらいあたしは安心した。



「まゆが、志希さんと同じぐらいうまくアイドルができていれば……」
「そうなったら、今のまゆちゃんの一途さは手放す羽目になるよ」

あたしは気が向いたときのレッスンだけでも、
いつも熱心なまゆちゃんに付いてけるだけのパフォーマンスが出せた。

「ごめんね。プロデューサーがまゆちゃんをソデにしてくれたと知って、ホッとしちゃった。
 あたしのスキな二人は守られた、と思ったから」
「きっとダメだろう、って思ってたくせに」
「いや、ヒトのココロはわからないからね。もしかしたら……は、あったよ」

あたしだって、まゆちゃんやプロデューサーの姿に、
出会った当初では想像もできないほど惹かれていたし。



まゆちゃんはあたしの肩に頭を乗せてきた。

「まゆを見つけた責任です……慰めてください」
「あたしが?」
「まゆがプロデューサーさんを好きだって気持ち、面と向かって言ってきたのは、志希さんだけですから」

まゆちゃんがプロデューサーを見つめるときの目は、吸い込まれそうなほど透き通っている。
それを向けられると、他の人は気圧されて何も言えなくなるらしい。ファンでさえも。

あたしは、あの時が止まったようにゾクゾクする感じ、けっこうスキなんだけど。



そうだ。今はこの透明な視線を浴びているの、あたしだけ。

――透明の糸なんて わかりやすいトラップよ
――世界中わたし達の 思い通りね
――Marionettes never sleep

「……志希さん?」

――さっきまでの価値観 全部変えちゃうくらい
――夢中になれることあるって 信じてみない?

今、まゆちゃんにキスしたら、その視線は曇ってしまうだろうか。

「いいよ。あたしの胸なら、貸すよ」

あたしはそう言うのが精一杯だった。






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