3: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/07/07(土) 09:42:47.45 ID:YKwXScl5o
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――kiss me chu chu chu chu tulip♥
――kiss me chu chu chu chu tulip♥
――このあとはもっと……
「好き、好き、好き――」
「違うよまゆちゃん。歌詞は“skip skip skip”だって」
プロデューサーは仕事熱心な匂いをビンビンあたしが感じただけあって辣腕らしい。
“Going My Way”のデビュー熱冷めやらぬうちにもう2曲目を手配してきた。
タイトルは“tulip”――意中のオトコノコを誘惑しつつ、
相手から踏み出してもらわないといけないオンナノコの歌。
「好き、好き、好き――」
「skip skip skip――まゆちゃん、わざとやってるでしょ」
「……えっ、いや、あの……」
まゆちゃんは相変わらずプロデューサーに好き好きオーラを飛ばしている。
プロデューサーはそれをにべもなく跳ね返す。アイドル活動優先なのだと。
「まゆ……プロデューサーさんに“好き”って言いたすぎて、つい……」
あたしもプロデューサーのことは好きだ。
匂いをかぐと安心するぐらいには。
まゆちゃんよりあたしのほうを見て欲しいって思うぐらいには。
ナニかに全身全霊で打ち込むヒトは、あたしのキモチを高ぶらせてならない。
ここまでくれば、恋と言えるかもしれない。
でも、
「プロデューサーって、ぜったいあたしたちのコトわかってるよね。
だからこんな曲を持ってきて……それでこんな扱い受けても好きなの?」
「……安心したら良いのか、憤慨したら良いのかわかりません。でも、好きです。あなただって分かるでしょう」
あたしたちからどう思われてるか自覚した上で――スキって言いたいのに、言えない――
プロデューサーはそれを利用してアイドル活動をさせてるフシがある。
良いように使われてる気がする。そこが気に食わない。
「言っちゃいなよ、もう。言って、一思いに玉砕しといで」
「……志希さんは、それでいいんですか?」
だからあたしはまゆちゃんを煽ってみる。
応えられない好意をぶつけさせてプロデューサーを困らせちゃえ。
「プロデューサーのコトは、スキだけど、キライ」
プロデューサーが魅力的な匂いと手腕の持ち主であることは認める。
でも、まゆちゃんの純粋な好意を利用することは認められない。
「まゆは……志希さんのアイドル活動に、ご迷惑をかけるかもしれません」
「あぁ、それは困るねー」
一方、万が一プロデューサーがまゆちゃんのキモチを受け止めちゃったら、
二人ともあたしが足を止めてしまうほどの強い思いの匂いは出せなくなるだろう。
不純物が混じっちゃうから。
「そうなったら、あたしの居場所もなくなっちゃうねー。身の振り方、考えといたほうが良い?」
あたしのクチから“身の振り方を考える”なんてらしくないセリフが出てしまう。
出たとこ勝負、成り行き任せでいつもやってきたのがあたしなのに。
「……ごめんなさい」
まゆちゃんは背を小さくして謝ってきた。
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