5: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2018/06/23(土) 12:09:47.14 ID:Rs9/yfEgO
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向井拓海
どうしようもなくイライラしていた。だから自慢のバイクでそこら中に爆音を撒き散らしながらあたしはそれを発散させていた。
時間帯や迷惑など知ったことではない。とにかくイライラを解消したくて、あたしは爆走を続けた。
すると途端に虚しくなってきた。何をやっているんだか。
ふっ、と魂が抜けたようになったあたしは、にわかにスピードを落として、路肩にバイクを寄せた。
それでもイライラは収まらねえ。
街路樹に謂れもない蹴りをくれてやって、足の痛みに若干後悔しながら、あたしは歩道で管を巻いていた。
その時、何か笑い声のようなものが聞こえてきた。
笑い声。違う。歌だ。
少し調子っぱずれなその歌は、あたしの耳に確かに響いてきた。
行き交う車の音とは確実に違う、人間の声のように聞こえた。
大丈夫だよ、大丈夫だよ。
そう言っているような気がした。
そうして、なんだかなだめられているような気分になった。
はっ、幻聴に宥め賺されるだなんて。
自嘲と呆れの混じった笑いが、いつのまにかあたしからこぼれていた。
なお止まない歌にのせられて、あたしはまたバイクにまたがって発進させた。
爆音にかき消されるのをいいことに、あたしもまた歌を口ずさんでいた。
アイツが歌っていた歌。なんだっけな、と思い出しながら途切れ途切れに口ずさまれるその歌は、エンジンの音にかき消され、響くことはなかった。
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