2: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2018/06/23(土) 12:08:05.00 ID:Rs9/yfEgO
モバP
初夏を通り越して、暑くなりつつある街の中、俺の足取りは重い。
外回りはこの季節、特に厳しい。曇っていて今にも崩れそうな天気に、この温度。
気分の重い俺に、誰かが、なにかが、肩を叩くように注意を逸らさせた。
街の中を歩いていると、雑踏に紛れて歌が聞こえてきた。
それは幻聴のようにも思われた。
ふと気づくと、俺は歩みを止めて、その歌と思しきものに耳を傾けていた。
少女が歌っているのだろうか。か細い声で、それでも懸命に歌っているように聞こえてくる。
そのように聴こえる。
ああ、ああ、ああ。歌詞を伴わないハミングは、清流のように俺の耳に入ってくる。
やがて、ああ、聞こえなくなって行く。雑踏にかき消されて。
きっといい娘だったかもしれないのに、惜しいことをした。
そして俺は歩き出す。自分のやるべきことを見失わないように。そしてその歌を忘れないように。
足取りが軽くなる。重いものを持っていたのを放り投げるように。
気がつけば俺も、歌を口ずさんでいた。その少女から、バトンを引き継ぐように。
ああ、なぜ、俺は歌を忘れてしまうのだろう。
あの歌はなんだったっけ、と、少しの悔し涙とともに、俺は外回りを続ける。
涙声の鼻歌は、少し篭って、響いた。
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