55: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/06/15(金) 20:33:01.57 ID:bVnO2WFP0
「……歌織さん」
「はい、何でしょうか?」
上擦った彼の声とは裏腹に、私の返事はとても朗らかなものでした。
私たちが足先を向ける車止めの向こう側、車道から注がれる車のヘッドライト。
眩しいほどの逆光を背にして仁王立っていた人物が、一歩前へと踏み出します。
「この時間に、歌織から迎えに来てほしいと言われていたものでね」
隣の彼が、謀りましたねとでも言いたげな顔で私のことを見ていますが……無視しちゃう。
先に入れた連絡通り迎えに来てくれた父がそんな私たちをじろり一睨み。
「それはそうと、家では家内が夕食を用意して待っているのだが。
……歌織の話では、君も食べに来てくれるのだろう?」
そうして、私も父の方へ一歩歩み寄ると。
「招待されて頂けますか?」
ニコリと彼に向かって微笑んで。
引きつり笑顔を返すプロデューサーさんがどこへも逃げられないように。
この止まり木が自分の物であると爪で証を残すように。
私はゆるゆると脱力していく彼の手をぎゅっと、ぎゅうっと……強く、固く、ドキドキしながら握りしめるのでした。
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