44: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/06/15(金) 20:16:05.11 ID:bVnO2WFP0
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だから、私だけを見ていてください。
どうかこの手を繋いで離さないで
――そう伝えることが出来たならば、気持ちはとても楽になるでしょうけれど。
「夕食の予約は任せてください」と彼の見ている前で電話を掛け終え、
それを合図に待ち合わせの喫茶店を後にする。
肩を並べて歩いていても、隣同士の席にいても、
二人の間で交わされる話はとても恋人同士のソレではなく。
贔屓目に見ても同僚同士のコミュニケーション。
最も身近で、かつ、共通の話題と言えば劇場の女の子達の話になりますもの。
「そう言えば、環の奴が褒められたって話はしましたっけ」
「いいえ、聞いてません」と私が素直に応えれば。
「歌織さんが自主練を見てくれるようになってから、声の出が以前より随分良くなったって収録で。
他にも同じように褒められたのが数人。みんなアナタの教室の生徒たちです」
まるで魔法でも使ったみたいですよ。
そう言って笑う彼の目には、こちらに対する期待があります。
アナタを信頼してますというプレッシャー。
それは少しだけ私の肩を重くして、同時に、
ちっぽけな自尊心に柔らかな陽だまりと水を与えてくれる。
ただ甘やかすだけのやり方じゃない、飴と鞭の絶妙なバランスが心地いい。
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