31: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/06/12(火) 12:15:38.69 ID:m9TSv9810
釣られて私も口を開けた。その時扉のベルが鳴った。
開け放たれた出入り口にコート姿の待ち人来たり。
――油断大敵。
口が一番大きく開いたところで二人の視線が重なります。
「――うにゅっ!?」
思わず噛み殺した欠伸は、お返しだと言わんばかりの間抜けな声を上げさせました。
一瞬、店内にある視線の殆どが私に注がれたような気がしますが――勘違いよと言い聞かせる。
素知らぬ顔を装いながら俯けば、
床を踏み鳴らし近づいて来る足音、安心できる聞き慣れた声。
「すみません」
急いで顔を上げたなら。
「待ち合わせをしてたんですけど……。相手がまだ来てないみたいで」
若いウェイトレスさんに説明する彼の姿が目に入った。
……全く何をしてるんだろう。
私は椅子から立ち上がって、人待ちに良さそうな席へと案内されようとしている彼の傍までやって来ると。
『プロデューサーさん』
そう、いつものように呼びかけた口を。
「プロ――裕太郎さん?」
無理やり違う形に変えた。驚く顔がいい気味だわ。
それに席はもう取ってありますと伝えたくて、彼のコートの袖を軽く引っ張る。
「遅刻ですよ。三十分も」
……流石に、そのまま腕を組んだりまではしませんでしたけど。
私はただの親切心から、きっと自分の仕事で忙しいだろう
ウェイトレスさんの手間を解消して差し上げたのでした。
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