渋谷凛「ふーん、アンタが私のプロデューサー?」
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10:名無しNIPPER[saga]
2018/06/08(金) 01:48:50.12 ID:I88sbQdx0
凛はもともと芯の強い子だった。というだけでは正確ではなく、というのもそれなりに表面も強い子ではあったわけだが、それでも初ライブまではやはりどこか危うさのようなものも感じられていた。
それが、あの日以降、ほとんど克服されてしまったようだった。
ラジオの収録をすれば危なげなく、ときに可愛く。CMでは求められた以上のクールさと美しさを見せ。ドラマにもわりあい出番の多い脇役で出られるようになっていった。
そもそも例のライブも本人が納得していなかっただけで、クオリティは初ライブにあるまじき高さだったのだ。
つまり客観的に言えば凛は、1つの失敗もなくとんでもないスピードでアイドル人生を駆け抜けていたわけだ。
トップアイドルにはまだ遠い。けれど明らかにそこに至る力と速度を彼女は持っていた。
「天賦の才だな」
秋空を見上げ、事務所の屋上で花粉に花をこすりながら、俺はそう独りごちた。
そうした折だった。
俺は解雇されることになった。
「すぐにというわけじゃないんですが」
とちひろさんは言いづらそうに顔を俯けながら付け足してくれた。
彼女のせいじゃない。むしろクビの宣告という嫌な役回りをやらせてしまって申し訳ないなと俺は思った。
「必然といえば必然です」
そう、正直に言った。
凛には才能がある。俺にはない。良いタッグではないに違いなかった。
社長としても妥当な判断をしたにすぎない。
「むしろあんなだった俺を一年でも拾ってくれただけで、あの方には感謝してます」
「すみません」
俺の言葉にちひろさんは誤ったが、それは慰めの嘘をつけない代わりの謝罪のようだった。
「…分かってました。確かにこのあたりが俺の限界でしょう」
春まで俺を置いておいてくれる。それだけでも社長の優しさがなければあり得なかった話だったろう。
クリスマスも年越しも凛と過ごせる。それで、十分すぎると思えた。
後任には本職の優秀な人がつくことになり、島村と本田という2人のアイドルもそれに合わせて合流すると聞いた。
今のニュージェネレーションはそうやって結成された。俺は凛以外の2人には何度か挨拶をしたことくらいしかない。
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