44:名無しNIPPER[saga]
2018/06/10(日) 19:05:27.82 ID:UsdkgY1f0
からん、からん、と。
そんな音がして、プロデューサーの持っていたビールの缶がその掌から零れ落ちて、小麦色の液体がテーブルに広がっていくのが視界の端に映った。
どくん、どくんと私の心臓が勢いよく跳ねるのが自然と分かりました。
もう、勢い任せの行動に頭の中はまっしろです。
理性がトンでいる間に唇と唇は離れていて、気づけば私はプロデューサーと見つめあってました。
なにを話そうとしたのか、ほぼ無意識に口を開いてから、ようやく気づきました。
刺激物質じみた苦みが舌を通して口一杯に広がる感覚。
テーブルの上からカーペットにぽたぽたと零れ落ちている小麦色の雫。
その残滓がプロデューサーを通して伝わってきたのは明確でした。
「…………うぇ。にがっ。まずぅっ…………わたし、はじめてだったのに……」
……はじめて。生まれてから覚えている限りはじめてのキスだったのに。
どうしてこんなことになってしまうんでしょうか。
「……ぷっ、……はははは」
「なっ……!? はぁっ!?」
一世一代。一世一代の私の告白ですよ。
だというのに……! この人ときたら笑っていました。
「わ、笑わないでくださいっ!」
――私だって、怒るときは怒るんですよ!
「……受け入れてくれるまで一生付き纏ってやりますから」
荒れ狂う感情の波を飲み込んで、精一杯の不機嫌を表情に乗せてから、プロデューサーを睨む。
「一生ですよっ、いっしょうっ!」
睨む私は見て、プロデューサーは先ほどとは少しだけ違う、見たことのない類の笑みを見せた。
困ったような、だけれど少しだけ嬉しそうにも見えるような。
今の私にはその表情がどんな感情を顕しているいるのかは、わかりませんでした。
だけど、私を涙すら浮かぶほど笑いものにしていたのか、私は気づきませんでしたけど、プロデューサーが目元に浮かんでいたらしい涙を拭っているのは分かりました。
“参ったなぁ”なんて小さく囁くプロデューサーを私はジトっとした目で睨み続けました。
……いや、女の子の告白を参った、参ったってなんですかっ!
とはいえ、拒絶の意思は感じません。
だったらそれは、私にとっての肯定とそう変わりませんでした。
それだけの自信が、私にはありました。
◇
「ちなみに、私が十二歳の時から立ててた計画だと今から半年以内に同棲生活に移行して、その一年後には式を挙げる予定です。なので、遅くても今から半年以内に同棲に移れるくらいに急いで私のことを愛してもらいます」
プロデューサーの表情が初めて引き攣った。
橘ありす「人生の墓場へようこそ」 END
52Res/35.90 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20