橘ありす「人生の墓場へようこそ」
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42:名無しNIPPER[saga]
2018/06/10(日) 18:58:28.82 ID:UsdkgY1f0
   《モバP「記憶のタイムカプセルはたいてい地雷と表裏一体」》



 ◇

「なかなか面白いものだと思いませんか? 私ももう大学生ですし、あとちょっとでお酒だって飲めるようになるんですよ」

「……実はこっそり舐めるぐらいはしてたりするんじゃないか?」

「そういうつまんないことで最後にケチつけられたくないですから。私はそういうの徹底してるんです」

「流石、しっかりしてらっしゃる」

事務所の丸テーブルの上には大量の近所で買い集めてきた総菜やら菓子やらがぶちまけられている。

まるで学生同士のような二人だけのちょっとしたお疲れ様の労い。
……では、あるのだが。小規模なものでもこの物量はなかなかのもので、余った大量の食品は多分俺があれこれ手を尽くして悪くしながら保存しながら消費することになるだろう。

ちょくちょくこういったことをするようになってから思い知ったのだが、お菓子とかに入ってるシリカゲルの乾燥剤とかとっとくと本当に便利。

たった二人だけでこれなのだから、パーティーやら行事やらでの世界的な食糧廃棄も増える一方なのだろうな、なんて。
どうでもいいことに少しだけ思考を巡らせる。

「……というか、私のプロデューサーなんですからそんな面倒ごと引き寄せるようなことを言わないでください」

「ごめんごめん」

なげやりな言葉での謝罪をとばしながら。




いくら大人が俺だけといっても、昔から酒類は事務所には置かないように気を付けているのだが、今日くらいは、と買い込んできた缶ビールを一口、煽る。

実のところ、お酒は強くもないし、そもそもの話、あまり好きでもない。
味覚が子供、と昔からありすからは散々にからかわれているのだが、こればかりはどうにもならなかった。
わざわざ他人に言うことでもないし、恰好のいいことでもないので、そのことを知っているのは両親とありすくらいだろうか。

舌が痺れるような苦みと渋みが脳みそにじわじわと浸透してくるような不快感。

―――なんだかな。

アルコールのせいなのか、なんなのか。
胃の中からせりあがってくるような仄暗い感情。

結局、最後に俺はひとりぼっちになるのか、なんて。
ひどく女々しい感情に喉元を締め上げられているような気がする。
情けなくて、申し訳なくて、純粋にダサい。

分かっている。
慣れないアルコールに逃げて、今だけは、と忘れていたいだけなのだ。

それでも、求めている効果は発揮してくれているのか、いい具合に思考の枷は緩んでいるし、どうにか黒い胸のうちを明かすことなく喋れている気がする。

「ほら、昔はたまに大人になったら結婚してくれる、みたいなこと言ってたじゃん」

些細な思い出話に華を咲かせて、それでおしまい。それでいいじゃないか。

「ふぇっ!?」

ちびちびと、紙コップに注がれたオレンジジュースに口をつけて飲んでいたありすがひどく動揺した声をあげる。

最後くらいは、なんて内心思いながら。
とっておきの記憶を開帳してやる。

「『あぁ、これが小学校に赴任してきたちょっと人気のある若い信任教師の気分かぁ』……なんて。当時はいつかありすが大人になったときにこの話を話してイジってやろうかな、なんてさ」

「…………は?」

「子供相手とはいえ、なかなかどうして、俺も捨てたものでもないんじゃないか、って気になったもんだよ。はは」

「……………………へぇ」

『わ、笑わないでくださいっ!』って感じで、不機嫌そうに、少しだけ照れたような顔をみせてくれれば、きっとそれ以上はない。

そんな風に考えながら俺は改めて、ありすへと視線を向けた。

胸に渦巻く感情の泥をなんともないように振り払って、笑え。せめて、今だけは。



願わくば。最後くらいは。
キミの往く先に幸あれと祈る、俺でありたい。


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