橘ありす「人生の墓場へようこそ」
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29:名無しNIPPER[saga]
2018/06/07(木) 23:29:37.16 ID:d7kJslco0
   《モバP「キミの往く先に幸あれと祈る」》



 ◇

人生には幾つもの区切りがある。
それはなにかとの、誰かとの出会いだったり、学業的な区切りだったり、就職だったり。

きっと、これは俺にとってもありすにとっても一つの大きな区切りになるのだろう。

終わりを言葉にしてしまったからだろうか。

顔を赤くして、熱を持った視線は、未だこちらに向けられている。
その胸の中で攪拌されているだろうたくさんの感情を表しているのか、薄っすらと涙すら湛えているようにすら見えるそれ。

ずん、ずん、と足元を慣らすようにして、ありすはこちらへと歩いてくる。

そして、俺のデスクの上、散らばる文具を払うようにしてスペースを空けて、そこにどっかりと座り込んだ。
そう、平然と机の上に腰かけやがりましたよ。この子。

一瞬、思考が止まる。
ありすは、続いて俺の飲んでいた牛乳のパックを掴み上げて、ぎゅうっっと吸い込む。
勢いよくひしゃげる紙パック。
恐ろしい勢いで吸い出されていく白濁液。

こつん、と机の上に投げ出されるように転がる紙パック。
当然、すでに中身など残っているはずもなく。

「喉、乾いてたんです」

「だったら好きなの冷蔵庫から取ってきなさい。あと、行儀が悪い」

「……放っておいたらぬるくなっちゃうじゃないですか。ぬるくなったら美味しくないから私が処理してあげたんです」

―――ここまで挑戦的な感情を露わにしてくるのも珍しい。

そう思ってみてみれば、ありすはなにかを期待するようにじっとこちらを見てくる。
なにかを求められていた。

―――はて? 一体なにを?

正直、なにも浮かびはしない。

俺のその無言の姿勢に少しだけ、眉をひそめてから、ありすは口を開こうとして――。

「……もっと―――」

――言い淀んで、言葉を止めた。
そして、少しの思い悩む仕草を見せてから、再び口を開いた。

「もっと、餌をくれてもいいです……よ?」

餌。えさ。エサ……?
エサってなんだ。なんなの?お腹すいたの……?

どうしよう、なんか作ったほうがいい……?いや、そんなのより、なんか出前でも取った方がいいのかな。

取っ散らかった思考を必死で束ねていると、ふと、彼女が子供の時も時々誰でも分かるようなミスをぽろりと零して、俺をわざと困らせて反応を伺っていたこと思い出した。

あの頃は態度も固くて、警戒心全開のハムスターのようだった。
その癖、構われないとヘソを曲げてスネるのだから、あの頃から可愛かったな、とも思うのだが。

あの頃はどうしたのだったか、――そう。
握りこぶしの先で……こう、こつんっ、って感じで優しく小突いたんだっけ。

「こらっ」

懐かしくなって同じように小突いてやる。
いつものように子供扱いするな、と怒られるかと思えば、ありすははっとした様子で目をぱちくりさせる。

「……そうでしたね。まだはやい。もうちょっとですもんね」

そして、深呼吸をひとつ。

「プロデューサーのせいですからねっ!」

なぜなのか。

俺は少しだけたそがれた気持ちでデスクの上でくしゃくしゃになって転がっている牛乳パックを見やり、指の先でそれを小突いた。

べこべこになっているせいで、無軌道に転がる牛乳パックのように、年頃のキミの心も無軌道なのだろうか。


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