ジータ「リーシャお姉ちゃん」
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2: ◆hQrgpWdMp.[saga]
2018/05/15(火) 21:47:32.94 ID:TeqkJU5v0
とある騎空艇の一室で重厚な碧い鎧に身を包んだ男性が、椅子に座って眠る12〜13歳ほどの少女の体を優しく揺すっていた。

「リーシャ」

「ふぁ……どうしたの、父さん?」

まどろみから目覚めたリーシャと呼ばれた少女は、寝ぼけ眼で自らを起こした父――ヴァルフリートを見上げて尋ねた。

「目的地に着いた。降りる準備をしなさい」

「はい」

父の言葉に頷き身支度を始めるリーシャ。といっても、まだ幼いリーシャができる身支度など、寝崩れた服や髪を整えることと剣を持って行くことくらいしかないのだが。

「お待たせ、父さん」

「ああ。では行くぞ」

そう言って歩き出す父の背中にリーシャもついて行く。執務室を出て艦の出入り口まで歩いて行く間、すれ違う人達は皆ヴァルフリート、そしてリーシャを敬礼して見送る。
この騎空艇が秩序の騎空団の旗艦『グランアインス』で、乗組員は全て秩序の騎空団の団員達なのだから当たり前のことであったが、リーシャとしては『団長の娘』として自分を見る団員達の視線で居心地が悪い。
その視線が『団長の娘』へのものだけではないというのも一因であったが。

全空最強と謂われる七曜の騎士が1人、碧の騎士ヴァルフリート。一緒に歩いているため敬礼はされるものの、敬意を受けているのはヴァルフリートだけでリーシャはただその娘というだけでしかない。
同年代の中でもかなり腕に自信があったが所詮は子供で、まして同年代よりも強いなんてことは『碧の騎士の娘』ならば当然だから。

(我慢しなきゃ。私がわがまま言って父さんについて来ているんだもの)

いつもの視線に耐えて父と共に騎空艇を降りれば、目の前に広がるのはどこまでも続く緑の草原だった。

(ザンクティンゼル……本当に田舎の島なんだ)

「リーシャ。来る前に話したが――」

「うん、わかってる。私はあっちの森の方に行ってるから」

「わかった。弱いとはいえ森には魔物も出る。十分に気を付けるんだぞ。夜までには帰ってくるように」

「大丈夫だよ。行ってきます」

いつも父に着いて回っているが、その仕事の性質上リーシャには見せられない案件ということも多々ある。そういうときはリーシャも無理は言わずに離れて行動するようにしていた。

(でも、こんな辺境の島に父さんがわざわざ来なきゃいけないことがあるのかな? 10日くらいはいるって言ってたけど)

静かで平和そうに見えるこの島に碧の騎士が訪れるだけの、それもリーシャに見せられないような重大な事情があるとは思えなかった。
それでもヴァルフリートが時間を無駄にできるほど暇ではないということも知っているリーシャは、自分には推し量れない何かがあるのだと納得して森へと向かっていった。


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