遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
1- 20
165:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/04/23(火) 23:04:48.48 ID:mit/xXSs0
――――――

翌朝になっても、遊び人は帰って来なかった。
二人で酒を飲んだ後、夜の闇の中に彼女が一人ふらりと消えてしまうことはこれまでも何度かあった。
今にして思えば、俺と別れた後にあのカクテルバーに赴いていたのだろう。

だが、朝になっても姿を見せないなんてことは一度もなかった。
確かに、彼女は魔族との戦いにおいても一歩も引けを取らない実力を持っている。
たとえそれでも、俺が彼女の身の安全を案じない理由には決してならない。
彼女は一人前の戦士であると同時に、俺のハートを打ち抜いた類まれなる愛らしさを持っているのだから。

日が昇ると同時に、俺は宿屋を起点に彼女を探し回ることにした。
ここは、そう広くない村だ。そんな村を、彼女のような美人が、しかも白と黒のワンピースに、首元には赤いマフラーというまるで道化師のようないでたちをしていれば目立たないはずがない。
彼女を目撃していれば、その身目麗しい姿を己が眼に焼き付けていることであろう。
だが残念なことに、予想通りであったのは、この村はさほど広くないという事実のみであった。
日がてっぺんに上る前には、俺は全ての住民に聞き込みも終えてしまったのだ。

俺たちが千鳥足テレポートで飛んで以降、彼女の姿を見たものは誰一人としていなかった。


俺は、宿屋にひとり戻ってきた。どんな精神状態であろうと人間、腹は減るものである。
それに闇雲に探すだけでは、どうにも埒があかないと悟った俺は食事を済ませつつ状況を整理することにしたのだ。
宿屋の主人に、声をかけ、俺は広間の一角に陣取った。

これだけ探しても見つからないということから推測できることは2つだ。
まず一つ目は、酔った彼女が何者かによってかどわかされたという可能性。
だが、例え酔っていたといっても屈強な彼女を、しかも勇者である俺の目を盗んで攫って行くなんてことは不可能に近い。
ならば最も可能性が高いのは、彼女が自らの意思で俺の前から消えたという推測だ。

彼女が消える直前、俺たちは意見の相違にお互い歩み寄ることができなかった。
故に、彼女が俺に愛想をつかし身を隠してしまったというのは十分にありえるのではなかろうか。
であるならば、彼女の行方を捜すという行為は、振られた男が未練がましく女の尻を追いかけているという風に見えるのではないか。
なんともみっともない話である。

そんなことを考えていると、イライラがつのり、つい足が小刻みに震えてしまっていた。
宿屋の主人が、食事を運んでくる。それに、何の配慮か俺にあの謎の自家製酒をすすめてきた。
やはり、俺の姿は女に逃げられた情けない男に見えているのだろう。
だが、見栄を張ったところで恥の上塗りになると思い素直に礼を言って酒を受け取った。

謎の液体を、一息に胃に流し込む。相変わらず、きついだけで美味しさの欠片もない酒だった。
しかしどういうわけか、不思議と足の震えが止まっていた。なんだこれは、これではまるでアル中みたいじゃないか。
だがあらゆる毒ですら殺すことのできない、神耐性を保有する俺が中毒症状に陥るなんてことはありえない。

ならば、先ほどの震えはなんだ。
俺は何を恐れているというのだ。
あの魔王とすら、たった一人で対峙した。世界で最も勇気あるものである俺が、何を恐れるや。

答えは既にわかっていた。
俺が恐れているのは、彼女との別れだ。
生まれてこのかた、魔族と戦うことばかりに励んできた俺が初めてした恋だ。
例え世界で最も勇気があると謳われても、俺はたったひとつ彼女との別れに臆しているのだ。何が勇者だ。ただの臆病者ではないか。
だが、もう震えはとまった。あの謎の酒の力だ。たとえまずくても酒は酒。
アルコールが脳をかき乱し、その恐れをかき消してくれている。

そう酒の力を借りることで、俺は恋愛に関しても恐れなど知らない勇気ある者へと姿を変えたのだ。
例え、どんな結末になろうとも彼女ともう一度話をしなくてはならない。たとえコテンパンに振られようとも、俺は耐性の勇者。その経験を糧に、さらに強くなるのだ。


と、決意を新たにしたところで、この村には彼女の行方に関する手掛かりは皆無だった。
ならば、頼る先はこの村にはない。秘密主義の彼女を辿るには、それを知り得る人を頼るべきだ。
そう、バー『俗人』だ。
彼女が足しげく通うあの店のマスターなら。俺の知らない彼女の情報を、何かしら知っているかもしれない。
もう一度、あの店に赴く必要がある。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice