80:名無しNIPPER
2018/11/09(金) 00:40:37.10 ID:x5VviyjQ0
美樹さやかはかなり活発な性格で、クラスメイトの男子生徒に対しても引くことなく向かっていくような人物だ。
故に、昔からそういったトラブルも多い。
こんな風に一方的に意見を言われれば、売り言葉に買い言葉であっという間に喧嘩が始まるのが当たり前だった。
それがない事に上条は不思議に思ったのか、さやかの方を振り向くと、彼女は驚いたような表情で、同時に目に涙を浮かべていた。
ごめん、と彼女は静かに言った。
ただ一言だけ。
「……、」
さやかは袖で目を拭うと、散らばった音楽プレイヤーとディスクを拾い集める。
イヤホン丁寧に束ねて音楽プレイヤーとCDケースと一緒に袋に入れると、彼女はテープで封をし、まるでしばらく使うことがないであろう家電を押し入れの奥にしまうように引き出しに入れる。
「今日はこれで帰るね」
固まっている上条の方を振り向くとさやかはいつもの笑顔でそう言った。
それがスイッチになったのか、上条の表情がハッと何かに気が付いたように変わる。
「ま、待ってさやか! 僕はーー」
「いいから」
彼女は前に出した片手を広げ、上条の言葉を封じる。
「あたし、恭介の事何にも分かってなかった。恭介の為に自分に何ができるかって考えて……。でもそれって結局自分本位なんだよね。相手にとってどうするのが一番いいのかじゃなくて、自分が何かしたいっていう考えが先に来ちゃってるんだからさ」
あははと無理を押して笑いながら彼女は言った。
でも、と続けて急に真剣な表情になり、
「たとえ周りに何を言われても、希望だけは捨てないで。どんなに辛い状況でも、希望を持ち続ければ、奇跡は起きるから」
「奇跡……?」
うん、と表情は崩さずさやかは力強く頷いた。
その妙な圧力に、上条は思わず目を逸らす。
「奇跡って……。何人もの医者がもう治らないって言ってるのに、何がどう起こるって言うんだよ。学園都市の技術を結集したって治るかどうか。ただ願い続けるだけで叶うなら、それこそ魔法だよ」
「その魔法があるとしたら?」
「え……?」
あるよ、と彼女は確信があるかのように言う。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
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