5: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:06:02.01 ID:pZdGRdJL0
そして、一歩、一歩とこちらに近付いてきた。
私は動くことができなかった。立ちすくんだまま、彼が近付いてくるのを見ていた。
突然吹雪が強くなり、立っていることもできず、尻もちをついてしまった。
正面からは深くかぶった帽子のせいで見えなかった彼の表情が、今ははっきりと見えた。
彼は、無表情でこちらを見下ろしていた。そして、私に伝えた。
6: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:08:22.20 ID:pZdGRdJL0
その後のことはあまり覚えていない。
来た道を必死に走って、走って、すぐにでも他の人がいるところへと行きたかった。
道中、あんなにも恐ろしく感じた野生ポケモンたちを気にする余裕もなかった。
ふと気が付けば、ふもとのポケモンセンター前にいた。新品のダウンジャケットはぼろぼろになっていた。
あの噂が本当なのか。彼がレッドなのか、私は確かめることができなかった。
7: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:08:50.55 ID:pZdGRdJL0
『月刊 オカルトの友11月号』 2009年11月15日 発刊
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8: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:09:24.66 ID:pZdGRdJL0
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あの時、実際彼は口を開いたのだ。
「なんだ……挑戦者じゃないんだ」と。
彼は決して喋らないと事前に聞いていた私は驚いて、少年の顔をじっと見つめてしまった。
9: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:10:24.21 ID:pZdGRdJL0
どういう意味だ、と言いかけた私の声をかき消して、彼は続けた。
「一番最初に、噂になったのは……本物のレッドかもしれない」
「だけど、十三歳の子供が。こんなところで生きていける訳ない……でしょ」
「……もう死んだよ、レッドは。雪崩に巻き込まれて……」
彼は淡々と言った。しかし、君は先ほど自分をレッドだと言ったじゃないか。私はそう言い返した。
10: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:11:11.27 ID:pZdGRdJL0
生きようとしている。彼は確かに、生きようとしていると言った。
彼は幽霊なのだと、先程自分でほとんど明言したようなものなのにも関わらず、だ。
そして、彼は「生きている」とは言わなかった。生きようとしている。命を得ようとしている。その段階だと。
私は訳がわからず、いや、正直に言えば目の前に居る少年が恐ろしく、何も言えなかった。
彼はザクザクと音を立てて雪を踏みしめ、私のすぐ近くまで来て、私の顔を覗き込んだ。
11: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:11:59.45 ID:pZdGRdJL0
「……僕は、本物の"レッド"になる」
12: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:12:28.23 ID:pZdGRdJL0
あれから、もう九年が経とうとしている。私はあの日の事を、彼の事を忘れることができなかった。
彼との約束通り、私はトレーナー達を煽るような記事を出した。
そのせいかはわからないが、あの後多くのトレーナーが彼に挑もうと山へ行き、彼に会ったのだという。
今や、彼は『生きている』というのが当然の事となっているようだ。
先日は、アローラ地方でのバトル施設でグリーンジムリーダーと共にバトルをしているのが目撃されたらしい。
13: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:13:04.98 ID:pZdGRdJL0
「記者タケモトの独白」 2018年4月8日 リーグにより発行禁止 原稿は────により焼却処分
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14: ◆nIESo90.aY[saga]
2018/04/19(木) 19:14:42.23 ID:pZdGRdJL0
おわり
15:名無しNIPPER[sage]
2018/04/19(木) 23:04:11.59 ID:p89C76CSO
乙です。
無口とか幽霊とか〜の方も更新待ってました。。
フィーゲフンゲフンギャルゲーも楽しみにしています。
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