49: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 20:44:17.00 ID:NMaauvKO0
「――――かえちゃん」
「はっ、はい」
空気が変わって、思わず鯉風太夫もまた、背筋をピンっと伸ばした。
「ちょっとこっち来てなおりなんし。大事な話をしますえ」
「み、みずき姉さま?」
「かえちゃんがわっちを昔と同じようにそう呼ばわるなら、わっちも昔とおんなしようにお話しさせていただきます。」
「え、えーっと」
「早う!」
「はっ、はい!」
ダン、と天神が強く畳を叩いたら、太夫が小さく跳ねるようにビクリとなり、それからおずおず、天神の前まで膝を進めた。
元々、天神の方が太夫より3つほど年長であったという事もあるが、それにしたってどちらが格上かわからぬ光景であった。
「かえちゃんは見棹屋の太夫であんすな」
「えー……はい」
「この花街でも当代随一の太夫でござんすな」
「えー……」
「そうであんすな!?」
「は、はい」
颯爽とした物腰に、この武断整然とした話の進め方は、京女というよりも江戸や関東の武家という気がする。
加えて、この美貌と気品である。ひょっとしたら瑞樹天神は、御家断絶の憂き目にあった元は武家の息女かもしれなかった。
正座をして凛と声を張るたたずまいは、まさに武家の姫様さながらである。
「ほなら、かえちゃんは自分の価値というのんを、きちんとわかっとらなあきまへん」
「……」
「かえちゃん。わっちはアンタには、幸せになってほしい。故に、手に入る幸せいうんを、ちゃんとわきまえなあきまへんえ」
瑞樹天神の顔には、まったく冗談の気はなかった。まったく真剣な顔で、太夫の妖瞳を見据えていた。
「好きになってしまったら、しゃあない。わかるわ。けどな、新選組のお人いうのんだけはやめとき。恐っとろしい未来しかありえへん」
「……」
「あの人らは、元はお百姓かご町人が殆どや。よしんば武士の出でも、足軽かせいぜい貧乏御家人の次男三男で、家督も継げん。帰る場所の無い男どもがお命を的に大金を稼いどるんや」
「そんなお人では、かえちゃんをきちんと幸せにすることは出来ん。
また、そんな人がたが命懸けで稼いだ五十両や百両を、花街で湯水の如く使わせるのは佳い女のすることではありんせん。せやからかえちゃんも、最初の逢瀬の時は三度もお断りにならはったんやろ」
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