47: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 20:35:55.99 ID:NMaauvKO0
◆◆◆◆
お前様、申し訳ござりませぬ。楓は、お前様ば不幸にしてしまいんした。
あの故郷の川で、楓はお前様のお情けば、決別するつもりでござんした。楓がお前様のごたる、つまらぬ駄洒落のひとつでも飛ばして上手く笑えておれたなら、きっとお前様も楓はもう大丈夫なのじゃと、笑って見送って下さったことでしょう。
けれど、お前様の腕の中があんまり温かくて、口惜しゅうなって結局、めそめそと泣いてしまいんした。そのせいで、お前様の哀れみば買うて、修羅の道に引きずり込んでしまいんした。
もう二度と逢ってはならぬとわかっているのに、逢いたや、恋しやと、思ってしまいんす。
楓は、弱きおなごでござんす。お前様のごたる、強くはなれぬでやんした。
どうか、お前様。楓が壊れてしまわぬうちに、甘ったれて何もかんもわからなくなってお前様にすがり付いてしまわぬうちに、血塗れた修羅の道、引き返しあってくんなんし。
今生の渡世は、楓の涙を拭ってくれたお前様の指の優しさだけで、十分でありんす。
もし、お情けを下さるのなら、お前様が幸せな天寿を全うされたる後の、来世の縁におすがりさせて下さい。
いつか、戦もなく、身分の違いもなく、お前様が刀の振り方も、血の匂いも知らぬでも済むような、そったな時代で巡り合うことができましたなら。
そん時は、頭からっぽにして、日がな一日、お前様のお酌をさせてくんなんし。
お前様は、来世もあの世も無いと仰りましたけれども、楓はやはり、縁はあると思いたいのです。
……それっくらいは夢に見ても、ようございましょう――――――
「鯉風こったいは、おりやんすか」
京者にしては颯爽とした美女が、鯉風太夫の膳を運ぶお禿を呼び止めた。
「ふわあ……みずき天神……おきばりやすー……」
「おきばりやす。こずえ、鯉風のこったいは、おりやんすか?」
「こったい……おるー……こったいの……しつー……」
瑞樹天神は、禿の目線まで膝を屈めて、改めて聞いた。
天神といえば上から数えて二番目の位、上の番付は太夫のみという位であるから、座敷も知らぬ禿にとっては雲上人である。
だが、この瑞樹天神は自身に関するこういった格式の序列を気にしない性格であるため、自分から見てどれほど格下である者に対しても変わらずに接した。
それゆえ、廓の中では彼女を慕う年少の者は多かった。
「おおきに。お母さんが飴ちゃん買うてきたようやから、瑞樹の姉さんに言われたいうてもらってきんさい」
「わーい……」
こったいとは、芸妓同士で太夫を呼ばわる際の敬称であった。
「鯉風のこったい、よろしおすか」
す、と隙間を開け、瑞樹天神は鯉風大夫に声をかけた。
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