高垣楓「おでん」
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10:名無しNIPPER[saga]
2018/04/14(土) 23:47:03.37 ID:HxHKUsXj0

注文の品を舟から揚げる。
器へ盛りつけてから汁を注ぎ足し、辛子の小瓶を添えてそれぞれの前に置く。
屋台の中は外に比べれば随分と暖かいが、皿からは勢い良く湯気が立っていた。

口を丸くしてその様子を眺めていた姉ちゃんが、一つ頷いて箸を割る。
大根を崩し、吐息で冷ましてから齧り付いた。

 「……ほ、あ、あふっ……ほ……」

兄ちゃんの方も大体似たような調子で、巾着を破った瞬間に滲み出した汁に慌てて口を離した。
雪夜に冷やされた唇におでんはそりゃもう熱いだろうとも。

 「……美味しい」
 「ええ。熱いけど、旨いですね」
 「どうも」

他の店に比べちゃあまだまだもいい所だが、こうして客に旨いと言ってもらえるのは何よりだ。
ま、仕事帰りの雪夜っつう調味料も掛かってるからな。

 「すいません、がんもとつみれ貰えますか」
 「私もつみれを二つ」
 「あいよ」

つみれを掬い上げながら、俺は微かな違和感を覚えていた。
姉ちゃんから受け取った皿へつみれを転がしてやった所で、ふと気付く。

 「……なぁ、姉ちゃん」
 「あ、はい。何でしょう」
 「俺、アンタにどっかで会った事あるか?」
 「うーん、たぶん無いと思いますけれど」
 「そうか……何か聞き覚えのある声だと思ったんだがな」
 「あ、それなら歌かもしれませんね。アイドルですので」


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