73: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:41:04.04 ID:X17K8DuQ0
忍がそっとマイクを降ろす。
一瞬だけ優しい微笑みを隠したことに気付いて、ついに目の前が真っ白になる。
覚えていてくれたらいいな。きっと夢の先の想い出で塗りつぶされてしまうとしても。
僕はきっと何もできなかったわけじゃなかった。
それだけで僕はあの時間をステキな想い出にできる。
こんな僕でもまだ何かを成し遂げられるだろうか。
顔を上げたであろう忍は、もう一度マイクを上げると、力の限りに声をあげた。
「聞いてくれてありがとーっ! このまま最後の曲もいっちゃおう!!」
少し間をおいて、割れるような歓声が地響きのように響き渡る。
イントロが流れ始めて、サインライトのピンクが、春の桜のように一面に咲き誇っていく。
その中で一番の笑顔を咲かせて、忍がみんなに問いかけた。
「ねぇ、みんな夢はある?」
「アタシの夢はね、トップアイドル!」
その叫びは、きっと思った通りに、人々を震わせた。
ぱっつんに切り揃えられた髪、決意に満ちた紺碧の瞳、りんごみたいに染まった頬。
綺麗なステップを踏むダンスに、やっぱり上手くはないけどなぜか心に響く歌声。
そこにいたのは自分が大好きだった女の子で、そして何よりも眩いアイドルだった。
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